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人魚の誤算

「ねぇ、貴女は僕とどういう関係なのだろう。このまま母と呼んでも良いのだろうか?」


アンシーになり、2ヶ月程で男子が産まれた。


レイテストと名付けた。   


その3歳に成長したレイテストが、私に尋ねてきたのだ。


「え!おまえは何を言っているんだ?」


私は一瞬動揺した。


油断していた。


このくらいの歳の子供は、普通近くのにいる者を無条件に信頼するものだろう。


普通なら母と疑うこともないはずだ。


良くも悪くも幼子の世界は狭いものだから。


だが、既に私が母でないと確信を持っている聞き方だった。


「ごめん、()()?という意味が僕にはわからない。貴女が僕の母を食べてその姿になっていること。僕を産んでくれて、育ててくれていること。他人から見れば間違いなく僕らは親子だ。けれど違うんだろう?」


レイテストは不安気な表情で話を続け、私を見つめていた。


私は息を飲んだ。


この子は全て知っている。


自分の母が死んでいることを。

私が人魚で本当の親ではないことを。


そして私の思考も読み取っていた。


しかしあり得ないことではない。


この子は2ヶ月間私と同化していたのだから。


私は率直に尋ねることにした。


全てを共有している今、隠し事は無意味だ。


私はレイテストがどうしたいのか聞いてみることにした。


するとこの子は『ただ生きたい』と言う。


この子は、母親が私の中に取り込まれる(吸収される)頃からの記憶がある。全てが溶けて私に再構成する時に、母親の生きてきた記憶と私のその時々の気持ちが流れ込んできていたと言うのだ。


生まれてからも精神感応力で、無意識に私の思考を読んでいたらしい。


そんなことをしてもきっと、喜怒哀楽くらいしか解らなかっただろう。


今までは流れ込んでくる思考の意味が理解できなかった。


しかし生まれてからの3年間の知識や、周囲の状況・母親の記憶とを総合させて、おおまかにだが自分の立ち位置について理解が追いついたのだろう。


自分には頼れる者がいない、孤独な存在だと・・・・・


おそらく本能でいつか私に捨てられると思ったのだろう。



私はひどく興奮した。


よくよく考えれば、母親を吸収した時にこの子も吸収される可能性が多分にあった。


それを防いだのは母親の意思、私の(自分なりの)制約、子の生命力と重なる要因があったのだろう。


そしてこの子は、私と同化してからの記憶をずっと持ち続けている。


そして母親の生きてきた記憶も何故か受け継いでいる。


ということは、母親が受けた仕打ちも承知のはずなのだ。


私は再び尋ねる。


「お前は私が怖くないのか?私の行動は善意ではないぞ」


「知っている。それでも貴女は、母に確認してくれた。私が産まれた後のことも。それで充分だ」 


ああ、この子には私に対する恐れがない。


全てを受け入れているのだ。


それならば迷うことはない。


「おまえは面白いね。私はずっと退屈してたんだ。おまえがいれば当分楽しそうだね。人間の寿命は私達から見れば一瞬と言っていい程短いから、おまえが嫌になるまでは一緒にいてやるよ」


私の口元は自然と弧を描き、レイテストの空色の瞳を優しく見つめていた。


すると、レイテストは私に抱きつき泣いていた。


きっと安心したのだろう。


その時、私の心を満たす愉悦が確かにあった。


この子はもう人ではなく、私よりのものなのだと。


全く一緒ではないことは確かだが・・・・・



世界に1つだけの異質。


それを知ったら絶望するだろうか?優越感に浸るだろうか?


レイテストには、まず最初に普通の人間についての常識も教えていかなければならない。


普通の人間に精神感応能力は備わっていないのだ。


この世界に生きる為に、擬態する必要がある。


まずは爵位でも買って、教育から始めよう。


気の遠くなる程遠く生きていて、財宝と呼ばれる物は海にたくさん沈んでいる。


生憎他の人魚は、そんな物に興味はない。


私だとて普段ならば見向きもしない。


人魚は自由だから。


これから少し楽しむ為に、この子の側にいよう。


軽い精神の感応で、母親の復讐を望んでいることが解った。


私も手を貸し、最高の舞台を整えよう。


今から楽しみである。


そして人魚はまた仄暗く笑っていた。



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