灯火 3
「すぐご飯食べる?」
ん。とだけ答え、私の腰に手を回す。汗と煙草とシトラスの匂いに包まれる。
「美咲を先に食べてもいいんだけど」
「手、洗って、着替えてきてください」
耳元で囁く彼に、最初の頃は頷いてしまっていた。
でも、それでは晩ご飯を食いっぱぐれることが分かり、最近は流すことにした。
「今日もバッサリだな。手ぇ、洗ってくるわ」
彼が笑いながら洗面所に消えたのを確認し、料理をローテーブルに並べた。
「今日は麻婆豆腐?うまそ」
目を細め、手を合わせる彼と一緒に食べ始める。悠さんは昼食はいつも『KURUMI』のランチを食べているそうだ。ランチのメニューと晩ご飯が被らないか、気になるところ。
「観光客は増えてるの?」
「まあ、な」彼はうんざりした顔で答えた。
「もしかして、ほぼ毎日来てる?」
「バスツアーって…何で毎日開催されてんだろな」
遠い目をして味噌汁を啜る彼を見ると、つい笑ってしまう。
「また笑ったな。人が苦労してんのに」
「だって」くすくす笑ってると彼もにやりと笑う。
「笑ったこと、後で後悔させてやるよ」
色香を含んだ甘い声で告げられ、食事中だというのにぞくりとさせられてしまった。
お風呂の準備をしていた。
「もう入れそう?」
「はい。悠さん、お先にどうぞ」
不意に手首を掴まれた。目の奥まで見つめられて、目を逸らせない。
「悠さん?」
抱き寄せられ、唇が重なる。啄むようなキスをしている間に彼の手が服の中に侵入し、ホックを外された。
「風呂、一緒に入ろうか」