灯火 2
「ただいま」
悠さんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
キッチンから玄関へと向かう。「ただいま」と「おかえり」を言い合う生活に、私達はまだ慣れない。互いに気恥ずかしさがあるのがわかる。
桜汰がストーカー化して襲われたのは忌まわしい事件であるのは間違いない。出来ることなら消したい記憶だ。
でもそのおかげで悠さんと過ごす時間が増えたのは嬉しくて。彼が守ってくれるのも嬉しくて。
彼に迷惑を掛けているという事実は変わらない。不謹慎だけど、彼と一緒に暮らしてる今、私は幸せだと思う。
襲われたせいなのか、彼は私に対して過保護だ。
一緒に暮らし始めた当初、帰宅時間は絶対に合わせるよう言われた。駐車場からマンションのエントランスまでの間に1人で歩く事すら禁じられた。
しかし、毎日同じ時間に帰宅するのは彼の仕事の性質上難しくて。1人で寄り道をしないことを条件に、先に帰宅して部屋で彼を待つという生活スタイルに変わった。
インターホンは絶対に出るなと言われている。
声で私がここにいることがわかってしまうから、というのがその理由だそうだ。桜汰にそんな探偵並みの能力があるとは思えないのだけど。