薄日 10
居酒屋を出てからは何も言わずにしばらく歩いていた。
外を歩くとき、手を繋ぐのが習慣になっていた。といっても、いつも悠さんが先に手を握ってそこから離さないというのが実情なのだけど。
「なあ、美咲」
顔を上げると真剣な表情の彼の眼が真っ直ぐに私を捕らえる。
「俺と手を繋ぐの、嫌か?」
「嫌じゃ…ないです」
「じゃあ、好きか?」
「好き、です…」
「俺と会うのは、嫌か?」
「嫌じゃないです」
「じゃあ、好きか?」
「好き、です…」
「俺に守られるのは、嫌か?」
「本当は自分の身ぐらい自分で守りたいですけど。でも、悠さんが気にかけてくれるのは、嬉しいです」
「だったら。俺と付き合って欲しい」
「…私が悠さんに抱いてるものが恋なのか、憧れなのか、はっきりしないんです。でも…」
「でも、悠さんがいたから、今の私は立っていられるんです。新しい土地で、新しい職場で、新しい環境で。桜汰に裏切られても、それでも立っていられるのは悠さんが側に居てくれたから」
「私は悠さんに、これからも側にいて欲しいです」
目の前には、彼の逞しい胸があった。シトラスとアルコールの匂いに包まれ、唇が重なった。