薄日 9
「あいつって…」
「あの元彼。一人暮らしするのに付き纏われてたら危険だろ?」
口をつぐんでしまった。目も泳いでしまう。
「…即答しないな。何かあるだろ」
桜汰とはあれ以来会っていない。仕事が忙しい時期なので、身動きが取れないのだろう。
ただ、スマホにメッセージが毎日来る。メッセージアプリをブロックする度に新たにアカウントを作っているようで、いたちごっこになっている。甘い言葉を吐いている時もあれば、暴言を吐いている時もある。
実害が無いので悠さんには黙っていた。
メッセージの件を悠さんに恐る恐る話すと、みるみる顔が険しくなった。
「何で言わねぇの?」
「実害は、無かったから…」
「十分あるじゃん。そういうの、結構なストレスになるだろ?何の為に俺がいるんだよ。言ってくれないと守れないじゃん」
「たかがメッセージだけで悠さんを煩わせるのは、申し訳なくて…」
「言わない方が嫌だよ」
不貞腐れた彼は飲んでいた冷酒を一気に飲み干した。
「大将、おあいそ」
大将が頷く。
「今日はもう、帰るんですか?」
悠さんに黙っていたのがこんなに怒らせるなんて、思わなかった。
「悠さん、怒った…?」
半泣きになって彼の服の裾を掴む。
「怒ってない。いいから、外に出よう」