飛湍 3
タクシーの中でも、降りてからも手は握られたままだった。
もう来ることは無いと思っていたのに。
また来てしまった。悠さんの家。
「適当に座ってて」
こないだ一緒に朝食を摂ったローテーブルの前に座る。
寝室から出てきた悠さんは、スポーツブランドの薄手のトレーナーとジャージという、ラフな格好だった。
「美咲も着替える?」
「私…もう少ししたら帰ります」
「え…?」
彼の瞳が揺れる。
「あれだけ悠さんに言われたんだから、もういないと思います」
前回同様、私が泊まると思っていたのだろうか。
でも私だって何度も迷惑はかけられない。
「ここに泊まるの、嫌か?」
「嫌とかじゃなくて。それ以前の問題で。何度も迷惑をかける訳にはいかないから…。私、今日は酔っぱらってないから自力で帰れます」
腕時計で時間を確かめる。桜汰との出来事から1時間は経っただろう。あと30分ぐらいしたらタクシーを呼ぼう。
悠さんが私の隣に座った。
「帰りたいの?」
「叔母さんに泊まるって…伝えてないし」
「連絡しておけばいいだろ」
「…悠さん、私に泊まって欲しいんですか?」
首を傾げて尋ねる。
面食らった顔ってこういう顔なんだろうな。