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宵 7
「美咲、俺のこと、ちょっと買いかぶりすぎじゃない?」
「え…十分紳士的じゃないですか」
「こないだはね」
こないだ限定なんですか?と問いたかったけど、こないだの自分がどんなものだったのかが分からないから、やっぱり何も言えない。
「俺じゃない奴の前で酒飲むの、しばらく控えた方がいいかもな」
カウンターに片肘ついて私を見るその目は、少し酔っているように思えた。
「飲む相手が悠さんでも、悠さんじゃなくても、私がしっかりしていれば…問題無いでしょう?職場で飲み会だってあるだろうし」
「そんなに男に襲われたいの?」
「そんなことありません!」
ひんやりとした冷たさを感じる目で見つめられ、胸の奥が締め付けられる。
烏龍茶を一気に飲み干す。
「ごちそうさまでした。大将、美味しかったです。私の分、おいくらですか?」
「…帰るのか?」
「ええ。服はお返し出来ましたし、お腹もいっぱいなので。また会う機会があれば、そのときはよろしくお願いします」
席を立って、保護者対応で鍛えた営業スマイルを発動させた。
気を張っていないと、涙が込み上げてきそうだ。