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宵 6
「次は何飲もうかな…?」
「あんまり飲んで、酔っぱらうなよ」
ドリンクメニュー表と睨めっこをする私に水を差す。
「私、そんなにしょっちゅう、酔っ払いません」
「どうかな。こないだは記憶無くしたろ」
「あれはご迷惑をお掛けしましたが…お酒飲んで記憶無くしたのは人生で初めてです。いつもはちゃんとしてます」
「どうだか」伊佐美をロックで飲む悠さんは私の手元からメニュー表を奪った。
「え、ちょ、悠さん」
「もう烏龍茶にしとけ」
「え、せめてウーロンハイで…」
「大将、この子に烏龍茶で」
大将が私に「どちらになさいますか」と問う。
「う、烏龍茶で…」
まだ飲めるんだけどな。でも悠さんに迷惑掛けたのは事実だからぐうの音も出ない。
「今度記憶無くすまで飲んだら…俺、襲うからな?」
「え…」
真剣な顔をして「襲う」発言する彼に、私は固まってしまった。
「襲われても文句言えない状況だったろ?こないだ」
冷酒に視線を落とし口を付ける彼に対し、またしてもぐうの音も出ない。
「でも…悠さんは、そんなことする人じゃないでしょ?」
「俺だって、男だよ」
その目に捕らえられた私は、簡単には動けない。