宵 4
「そうだったんですね。でも悠さんが花屋さんにいなかったら、マダム達がっかりするんじゃないですか?」
露骨に嫌そうな顔をする彼に、先日見つけたネット記事を見せる。更に顔が険しくなる。
「顔写真まで載せていいだなんて、俺、言ってないんだけど」
ゴッホの池周辺の見どころを伝えるネット記事だった。悠さんの顔写真が載せられていて、イケメン店員として紹介されていた。
「俺は客寄せパンダじゃないっての」
ビールを煽ってグラスを空にする。
「大将、黒霧、ロックで」
まずい話題に触れてしまったのだろうか。彼に続いて私も梅酒ソーダを注文した。
「もしかして、観光客が多い影響で研究が進まないとか…?」
黒霧島に口をつける彼は少し考え込んだ。
「いや、そうでもない。観光客が来る時間は一時的だからな。ただ…」
「ただ?」
「自分の本来の仕事じゃないものって疲れるじゃん?ルーティンとは違うものというか。薬草の研究にマダムの集団の対応なんて無いからな」
「そうですね」と言いつつ、やっぱりくすくすと笑ってしまう。薬草の研究をしているであろう悠さんとマダムの対応に追われている悠さんの姿はギャップがあり過ぎる。