宵 2
「お待たせしました。お疲れさまです、悠さん」
悠さんのすぐ隣の席に座る。ん、とだけ答えて私を一瞥した。シトラスの香りにふわっと包まれる感覚がする。
「女将、グラスもう一つちょうだい」
「はいはい」
「…ビールでいいか?」
はい、と言う間も無く冷えたグラスを手渡される。
悠さんがビールを注いでくれた。
「じゃ、お疲れ」
ビールの入ったグラスを小さく音を鳴らす。冷えたビールが喉越しに心地良い。悠さんのビールを飲む喉仏に一瞬見惚れたのは内緒だ。
「職場、慣れた?」
「まだ2日目なので慣れた、とは言えませんけど。昨日の授業は問題無く出来ました」
「良かったじゃん。滑り出しとしてはいいんじゃないか?」
悠さんの口元が綻ぶ。悠さんの笑顔は居酒屋の店内でも眩しい。
「悠さん、今日もお仕事でした?」
「土日は観光客増えるからな。今日は仕事で、明日は休み」
「またマダムに沢山囲まれてたんですか?」
くすくす笑いながら言うと頬に指が突き刺さった。
「痛いです、悠さん。刺さってますけど」
頬に悠さんの指が刺さったまま顔を見る。若干不貞腐れている様に見えるのは気のせいではないだろう。
「囲まれたくて囲まれてんじゃねえっての」
私の頬を解放すると、悠さんはグラスの中のビールを煽った。