一歩 10
「えっ…?」
目が泳いでしまう。
「服、借りちゃうぐらい仲良いんでしょ?」
その、微笑ましいものを見るような慈愛に満ちた微笑み、桜汰と別れた今の私には凶器でしかない。
「その…彼とは、別れました」
「えっ…⁉︎」
美香子叔母さんが目を見開く。それなら何故、男物の服を洗濯する状況になるのかとその表情が問いている。
「あ…ええと…その、これは私の服で…。その、流行ってるんですよ、メンズサイズを着るのが」
早口でまくし立てる。
「そ、そう、なの…」
「じゃ、私スーツだし、着替えてきます」
茫然とする美香子叔母さんを置いて自室にのある2階へ急ぐ。ドアを閉めてふうっと息を吐いた。
誤魔化せた…?いや、誤魔化せてないだろうな。
説得力はほぼゼロだ。
明日からの授業、1学期の間、問題無くこなせたら本当に常勤と一人暮らしを検討しようと心に誓った。
それはそうと、この服を悠さんに返さないと。
『昨日は服ありがとうございました。洗濯ができたのですが、お渡し出来そうな日はありますか?』
メッセージを送信した。忙しくてすぐには既読は付かないだろう。マダムの総攻撃を受けていた悠さんの姿が浮かんで、1人でくすくす笑ってしまう。