37/237
草萌え 10
「苦手な人もいるからね、煙草」
運転をする悠さんの横顔はやっぱり美しくて。
じろじろ見てはいけないと思いつつ、何度も盗み見てしまった。
「今日、仕事は?」
「今日はお休みなんです。明日の入学式で国歌の伴奏をすることになってます」
「じゃあ、子ども達への美咲先生のお披露目は明日になるんだな」
美香子叔母さんのマンションが視界に入る。
ここでいいです、と告げると彼はゆっくりと速度を落とした。
「ありがとうございました。お仕事、頑張ってください」
「ああ。じゃ、またな」
車が見えなくなるまでその場に立っていた。
美香子叔母さんはもう職場へと出掛けたようだ。
皺だらけになった服と悠さんから借りたTシャツと短パンを洗濯する。麻のワンピースに腕を通して、やっと息をついた。
昨日の修羅場。
途中から覚えてない悠さんとの飲み。
悠さんとの朝。
展開が目まぐるしいにも程がある。