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草萌え 9
振り返って悠さんを見ると、バツの悪そうな顔をしていた。
「だからって、ちゃん付けもなんか…違う気がして」
「美咲、でいいですよ」
「呼び捨て?」
「とってもお世話になりましたし。では」
道路に向かって体の方向を変えようとした。手首を掴まれてまた振り返る。
「…悠さん?」
「その…家、どのへん?」
「本町通りですけど…」
「本町、車で通るから…乗ってかないか?」
「いいんですか?…でもこれ以上ご迷惑お掛けするわけには」
「朝メシ美味しかったからいいの。ほら、行くぞ」
手首を掴まれたまま、駐車場へと向かった。
どうぞ、と悠さんが黒いSUVのドアを開け、助手席を勧める。お言葉に甘えて助手席に座った。
車で送ってもらうなら、服借りなくても良かったんじゃ…?でも、送ってもらう事前提で考えてなかったしな。
「煙草の匂い、しませんね」
「車の中では吸わない主義なんだ」