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Epilogue 4
反射的に私も振り返った。和佳子お母様が私達に近づいて立ち止まると、無表情だったその顔を優しく崩した。
「悠、おめでとう」
悠さんは言葉を失っているようで、何も言わない。
「ありがとう、ございます」
「あなたには言ってないわ」
いつか喰らった冷たい視線を投げつけられる。
「私はあなたを認めるつもりは無いわ。でも、隆夫さんがこの結婚を認めたなら、もう私は何も言わない。せいぜい幸せになるのね」
身を翻して姿勢良く高いヒールを鳴らして去っていく和佳子お母様を、私と悠さんは呆然と見送った。
「悠さん。幸せになっていいって、言われたよ」
「ああ…。そうみたい、だな…」
「あの、そろそろ、よろしいでしょうか…?」
介添さんが遠慮がちに口を開いた。
「皆様お待ちですし。チャペルへの御移動を…」
悠さんと私は顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
「行こうか、俺達の結婚式へ」
彼の言葉に頷いて、ウェディンググローブ越しに手を繋いだ。
エメラルドグリーンの海の懐に抱かれたチャペルで、私達は今日これから、永遠の愛を誓う。
fin.
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