ずっと
晴れて良かったと思う。
生まれて初めて降り立った富士山の5合目。山頂に向かう登山者はここから出発するらしい。山に挑む登山者達はもっと物々しい装備で挑むと思っていた。しかし、実際に目にした登山者の服装は、特に女性は予想に反して可愛かった。この格好ができるなら、登山に挑戦するのも悪くない。
何度も抱かれて、力尽きるかと思った。露天風呂と浴衣の威力は半端無いということがよく分かった。しょっちゅうは辛いものがあるけど、たまにだったら温泉旅館で何度も抱かれるのは悪くない。ほんの数日前まで、暗い空気を纏っていた私達とは大違いだ。これこそリフレッシュと言うにふさわしい気分転換だと思う。
見晴らしは最高だ。雲が自分より下にあるって不思議な感覚。朝方、私を朝風呂に誘った悠さんは、やはり湯船の中で仕掛けてきた。湯当たりしなかったのは奇跡だと思う。
「なあ美咲。富士山の空気売ってるよ?」
富士山5合目にある売店にふらっと入っていた。お土産をちらちら見ていた私に、笑いを堪えてその缶詰を見せた。『富士山の新鮮な空気を詰めた世界で初めての逸品です』『あけるとさわやかな登山気分!』との宣伝文句が更に笑いを誘う。
「俺、これ買ってくるよ」
「え、買うの?悠さん」
「面白過ぎるだろ。いいじゃん、思い出の一品ってことで」
未だ笑いを堪えたまま、彼はレジへと向かった。富士山の空気の缶詰は山積みされている。今到着したと思われる外国人女性が私の顔を見て「Fuji air?」とやはり堪えきれない笑いを漏らした。