蜜月 7
「装備って…」
くすくす笑っていると、車は高速の出口に吸い込まれた。
絶叫マシンで有名な遊園地を横目に、車は河口湖周辺の街を走っていく。ワイン工房やほうとうのお店が目につく。遠目に大きな湖が見える。これが河口湖なのだろう。山と湖に囲まれた道を走っていると河口湖沿いにいくつかの温泉旅館が見えた。そのうちの一つの玄関前に車を停めると、旅館のスタッフに案内された。
落ち着いた日本家屋の、梁が印象的な旅館だ。仲居さんに部屋まで案内される。部屋の窓から富士山の雄大な姿がよく見えた。
「こちらのお部屋からは富士山がよく見えるんです。そちら、露天風呂からの眺めも素敵ですよ。」
この部屋には露天風呂が付いているらしい。ガラスの引き戸を開けて露天風呂に出る。富士山は部屋の窓から見た時よりも更に存在感を増していた。柔らかな湖の風が頬を優しく撫でる。露天風呂の格子からは河口湖が見える。贅沢な眺めに胸を躍らせていると、悠さんが満足そうに私を見ていた。
「悠さん、すごいですね。富士山見ながら露天風呂入れますよ」
「仲居さんの説明が終わったら一緒に入ろうか」
「ちょ、悠さん!」
仲居さんに聞こえてしまわないか焦った。でもこの会話には慣れているのか、仲居さんはちょうどお茶を淹れ終わったところだった。
「今日はいいお天気ですので、お車で5合目まで行かれる方や湖を散策される方が多いですよ」
「悠さん、私5合目まで行ってみたい」
「そうだな」
座敷に座ってお茶を飲み、館内の説明を受けると、仲居さんは静かに退室した。物腰の柔らかい、微笑んだ顔が印象的なおばさまだ。あんな風に歳を取れたらいいなと思う。