蜜月 3
「温泉?」
「うん。悠さんと遠出って、東京のご実家行ったときぐらいでしょ?たまには行ってみたいの」
すみれとランチをした土曜日の夕方。悠さんは早めに帰っていたらしく、また眼鏡をかけて部屋でパソコンに向かっていた。晩御飯は彼の希望でハンバーグを作った。悠さんが晩御飯のリクエストをするときはグラタンやハンバーグやオムライスとか、小さな子どもが好むメニューが多い。これもまた彼の幼少期の影響なのか。それともただ単に男の人はこういうメニューを好むのか。
「いいよ。いつにする?9月の3連休ぐらい?」
「あ、そこの3連休の初日は運動会なの。雨天順延だから、日程が狂うかも」
「じゃあ、その前の3連休は?」
「そこなら大丈夫」
「どこか探して、予約しておくよ」
「え、私も探すよ?」
「いいの。今回は俺に任せて。次行く時は、美咲が計画してくれればいい」
そうか、次もあるんだ。ずっと側にいるということは、何度も悠さんと旅行に行けるということで。その事実が幸せで、頬が緩んでしまった。
夕食を食べ終えて片付けをしていた。冷えた缶ビールを手にした彼に誘われ、横並びにラグに座ってプルタブを開けた。
「良かった」
「え、何が?」
鼓膜を優しく振るわせるその声に振り向くと、悠さんは愁眉を開いた。
「最近美咲、辛そうな表情が多かったから。……俺の、母親のせいだよな。ごめんな」
「…っ!それは、悠さんが謝ることでは、ないよ。悠さんだって、辛そうだった」