物思い 9
更に力を込められて少し苦しい。でもきっと悠さんは、もっと苦しい。
「お疲れさま」
「うん。疲れた。…美咲」
「はい」
「秋刀魚、食べたい」
思ってたのと違う言葉が鼓膜を揺らし、つい笑ってしまう。
「悠さん、食べてきたんじゃ?」
「母親と一緒じゃ味なんて分かんねえよ。美咲が焼いた秋刀魚が食べたい」
そのまま美咲も食べたい、という言葉は流して、腕の力が緩んだと同時にキッチンに向かった。
ご飯と焼き魚、小鉢と漬物とお味噌汁をローテーブルに出すと、悠さんは無言で食べ始めた。食べている間、ずっと何も話さない彼は、本当に疲れた顔をしている。どんな話をしてきたのかは、何となく想像できる。でも、私の想像以上に彼が消耗していることはその姿を見れば明白だった。
「ご馳走さま。俺、風呂入ってくるよ。美咲は先に寝てていいから」
私の返事を待つことなく、彼は風呂場へと向かってしまった。先に寝るべきか、寝ないべきか。起きて待っていたらプレッシャーだろうか。
迷った結果、ベッドに入った。悠さんを待ちつつ、うとうとしていた頃。彼の気配を感じた。お風呂から出てきたみたいだ。
「美咲、起きてる…?」
「ん…」
悠さんのいる方へ寝返りを打つ。顔を上げると、辛そうな顔をした悠さんと目が合った。彼のTシャツの裾を掴んで引っ張る。次の瞬間、ベッドの中できつく抱き締められた。
悠さんは何も言わない。私も何も聞かない。無理に聞かない方がいい気がした。きっと、まだ彼の中で感情がまとまってない気がした。それを言語化するには時間がかかるのだろう。