邂逅 9
しかし向き合うといっても…。こちらから連絡するのも無視されそうだし。どうしたものか…?
「…美咲?」
「ねぇ悠さん。私、こっちのお母さんにも挨拶をした方がいいと思うんだけど…」
「やめた方が良い」
私を腕に閉じ込めたまま、間髪入れずにきっぱりと彼は告げた。
「この人は美咲が思ってるよりもずっと、話が通じない。自分の思い通りになるまで執念深く、美咲に付き纏うと思う。どうしても、と言うなら、黒瀬の母に一言伝えておかないと多分拗れる」
「そう、か…」
このお母さんを取り巻く黒瀬家の事情は、私が思っているよりもかなり複雑なのかもしれない。私が余計なことをすると、それこそ悠さんを苦しめるかもしれない。
「わかった…。黒瀬のお母さんに相談、大事だね」
「そんなことは美咲は考えなくて良いよ。母親に関しては俺に任せてほしい」
私よりも悠さんの方がお母さんの扱いはよく分かっている。それは紛れもない事実だ。
「それより、早く戻って寝よう。明日も仕事だろ?」
「うん…」
ベッドの中に再び入る。目を覚ます前よりも強く抱きしめられていた。
「ちょっと、いいかしら?」
見覚えのある、髪の長い可愛らしい感じの美魔女。悠さんの産みのお母さんが、マンションのエントランスで私を待ち構えていた。
「こんにちは。悠さんなら、まだ仕事だと思いますが」
震えてはいけない。動揺してはいけない。
仕事で培った営業スマイルを総動員させて、私は彼の産みのお母さんと対峙した。