邂逅 5
「では時間になるまで、沢山メモしてください。結城先生、いいですか?」
「はい。そのメモは月曜の国語でものすごく使います。沢山メモした人は月曜日ラクになるので、しっかり書いてください」
はあい、と返事した子どもたちは広い温室内の通路に沿って散り散りになった。
「お花、いかがですか?奥様に」
「花か…うちの奥さん、サボテン枯らす人なんだよ」
「サボテンって…多肉ですよね?そもそも枯れましたっけ?水あげすぎちゃったんですか?」
「水はあげてなかったらしいけど。でも枯れたらしいよ」
「そうですか…」
家事をあまりせず、サボテンを枯らす。鈴木先生の奥さん像が更に謎に包まれる。
子どもたちは順調にメモを続けている。鈴木先生と世間話をしていると、視線を感じた。顔を上げると、温室の反対側にいる悠さんと目が合った。それも、とっても機嫌が悪そうな。悠さんは近づいてくるわけではなく、関係者しか入れない場所で作業をしている。世間話してただけなんだけどな。家に帰ったらまた機嫌を取らなければ。
悠さんにそうたくんとかんたくんが近づく。
「おにいちゃん、こないだ柿小来てたでしょ」
「こないだ?」
悠さんが怪訝そうな顔をする。
「ミニトマトの苗のおにいちゃんだ」
あきらちゃんも近づく。
「苗か。ああ、柿小に持って行ったなあ」
「ミニトマトね、沢山できたよ」
「おっ。沢山食べたか?」
「お母さんがご飯に出してくれたよ」
3人が悠さんのいる、関係者以外立ち入り禁止区域に入ろうとしている。