覚悟 10
「クレーム…モンスター?」
モンスターペアレントの進化版だろうか?
「そう、クレームモンスター。モンスターペアレントだなんて、そんな生易しいもんじゃない。まあ、私の造語だけど」
相当対応が大変なのだろう。涼しい顔して蟹のクリームパスタを食べているけど、言葉の端々にすみれの苦労を感じた。
「どんな…感じなの?その、愛人さん」
よくぞ聞いてくれました、といった表情ですみれは語り出した。
「愛人さあ…暇なんだよね。囲われてるから自分で生活費も我が子の学費も稼がなくていいじゃん?で、暇だから毎日クレームの電話掛けてくんの。お得意のネタは漢字ドリルの使い方」
「漢字ドリル?」
「私の漢字指導が気に入らなかったらしくてさ。漢字ドリルに書かれてる、隅から隅まで解説しないと毎日30分以上電話が続くの。あの暇人の対応だけ私の給料上げて欲しいよ、ほんと」
漢字の指導は漢字ドリルだけではなく、教科書の内容とリンクして指導する為、必ずしも隅から隅まで解説するわけではない。その授業の45分間の中で解説して、子どもたちが身につけば、それで良いのだ。そしてそれは、子どもたちの実態によってやり方も変わる。
「自分の要求が通るまで、毎日毎日電話してくるの。もうね、美咲、あの人種とは分かり合えると思っちゃだめだね」
「そ、そこまで…」
「美咲は素直だからさ。どんな人とでも話せば分かり合えるとか思ってない?」
「それは…昔は思ってたけど、前の学校でそれは無理だと思い知らされたよ」
だから全てが嫌になって、水無瀬の学校を辞めたのだ。