東風 11
「取材とかって…断れないんですか?」
「柿山が注目されるのは滅多に無いことだからって、基本的には断らないようお達しが出てるんだ」
あっという間にランチを平らげてフルーツサンドに手を伸ばした彼は難しい表情で答えた。
「まあでも、嫌な客ばかりでも無いしな、かっちゃん」
「そうだな」
店主はコーヒーとフルーツサンドを自分の横に置いていた。コーヒーに口をつけると小さくため息をついた。
「…あの、かっちゃん、って呼ばれてるんですか?」
「ああ、俺の名前、勝雄っていうの。だからかっちゃん」
「そのまんまだな」
悠さんも口角を上げてコーヒーに口をつけた。
私のコーヒーは、もう既に空になってしまった。
「私、そろそろ…」
「うん、またおいでね」
店主の笑顔に少し安心した。これからこの地区で働くとはいえ、私にとってはまだアウェイだった。何となく、やっていけそうな気がした。
立ち上がる脚に痺れを感じた。ずっと正座をしたままだったのだ。少しよろけてしまったが、歩けないことはない。
「お会計、お願いします」
店主が慌ててレジに向かう。
段を降りようとしたあたりで体が傾いた。脚が言うことを聞かない。