覚悟 7
「すみれ、です。大学からの友達で」
「え?男じゃないの?」
この上なく怖い顔をしていた悠さんは、一瞬にして気が抜けた顔をした。
「水無瀬の小学校で勤務している子で、明日ランチすることになったので連絡してたんです」
「そうか…ごめん」
取り上げたスマホを私に返す彼は、ばつの悪そうな顔をした。
「悠さん、私が悠さんに隠れて男の人とスマホでやり取りをするとでも思ったんですか?」
彼を見上げて思いっきり睨む。悠さんの瞳が揺れた。
「私、悠さんに信じて貰えてないんですね」
言いながら、何だか悲しくなってきた。結婚の約束をして、互いの家族にも挨拶して、結婚の承諾も貰ったのに。この後に及んで、私は悠さんに信じて貰えてなかったなんて。悠さんの、簡単ではない背景を受け入れようとしている努力をも否定されているようで、考え出したら涙が出てきた。思えば、東京のホテルにいた時から、ずっと泣くのを我慢していた。涙はポロポロと後からどんどん出てきて、止まらなくなってしまった。
「ごめん…俺…」
居たたまれなくなった私は、その場から逃げるように玄関へと向かった。
「美咲!待って!」
手首を掴まれた。強く握られて、振り解けない。
「離してください!」
「嫌だ!離さない!」
身体を引っ張られ、腕の中に閉じ込められた。
「信じられないなら、離せばいいでしょう!」
「信じてないわけないじゃないか。俺には美咲だけなんだよ!」
振り絞るような、苦しそうな声。彼の肩はまた震えていた。
「だったらどうして…疑うの?」
「ごめん…俺が、独占欲が強いだけなんだ。美咲は悪くない」