覚悟 5
「やだ。美咲、逃げるだろ」
私の髪に顔を埋めて意地でも腕の力を緩めない彼は、駄々っ子のようだ。
「逃げませんって。寝返りを打ちたいんです」
体勢を変えて、悠さんの方を向いた。
「ふふっ…悠さん、駄々っ子ですね」
小さく笑うと彼はむくれた。
「だって美咲…」
「大丈夫。黙っていなくなることはしません。ね、信じて。私は、悠さんの側を離れることはありません」
「本当に?」
「本当」
それでも、腕に込められる力は強くなった。
「俺ね…母親がうつ病発症したとき、母親は行方不明になったんだ。夜一緒に眠ってたのに、朝起きたらいなかった。その後だよ、俺が保護されたのは」
悠さんの、辛い記憶。前よりは受け止める準備はできたと思う。辛いのを、話してくれてる。しっかり、聞こう。
「だからかな…。夜一緒に寝てるはずの美咲が、美咲の体温が、一瞬でも離れると起きてしまう。その度に美咲はちゃんといてくれて安心するんだけど、美咲がベッドから離れようとすると少しパニックになるんだ」
「悠さん、ちゃんと眠れてる…?」
「美咲と一緒に寝てれば、大丈夫」
私が一緒に眠るだけで、少しは彼の支えになることが出来ていたのかもしれないかと思うと、嬉しかった。私は特別なことはきっとできない。でも、彼の精神安定剤的な役割ができてるなんて光栄だ。
顔を近づけて、唇を重ねた。触れるだけのキスを、何度も。
「なあ美咲…」
声がさっきより甘くなる。
「もう身体は大丈夫?」
言いながらも、彼の掌はパジャマ越しに膨らみをそっと弄る。
「ん…昨日はよく眠れたから…」