覚悟 3
「救急車、呼ぼうかと思ったよ…」
「大袈裟」
力無く笑う私に悠さんは真剣な表情で言った。
「大袈裟なもんか!俺、美咲が死んじゃうかと…」
私を抱き締めてはらはらと涙を零す。
「大丈夫か?やっぱり救急車…」
「たぶん、貧血、です…。救急車、呼ぶ程じゃないです」
もう目眩は無いので身を起こした。背もたれに、ホテルの枕はちょうどいい。裸のままベッドに寝かされていたのでパジャマを身に付けた。
「今日、無理させたよな…。ごめんな、俺、ちょっと浮かれてた」
「悠さんは、悪くないの。ちょっと、情報が多過ぎて…」
「情報?」
「私、悠さんの世界の一部分しか知らなかったんだなって…。今日悠さんの実家に行ったり、一ノ瀬さん達と話して、何だか痛感しちゃって」
彼の瞳が揺れる。
「あんまり話してなくて…ごめん。黒瀬の家の事情は、知れば知るほどしんどくなるだろうから。なかなか言い出せなかった。でも、これだけでも、一度に知るのはしんどかったよな」
ごめんな、と私を抱きしめて私の肩に額を乗せた。
これだけでも、ということは、まだしんどい事情はあるのだろう。受け止めるには、私に覚悟が足りなかった。知る度に倒れていては、悠さんを支えるどころか、負担にしかならない。これではいけない。
「私、もっと気合いを入れないと、ですね」
「気合い?」
「悠さんが、私に何でも話せるように。どんな話でもどんと来い!って言える体力とメンタル、身に付けないとなって思ったんです」
「俺、美咲の負担になるのは、嫌だよ」
「負担なんかじゃ、ないです」
動揺する悠さんに、私はそっと抱きついた。