覚悟 1
悠さんの手配してくれたホテルは、すごく高級なホテルで。部屋から見える夜景はスカイツリーも東京タワーも見えて、宝石箱みたいだ。
部屋に戻って一人掛けのソファに座る。夜景をぼうっと見ていた。
長い1日だった。悠さんの実家の方々は、表面上は私を受け入れてくれた。でも、悠の産みのお母さん、和佳子さんのことは避けて通れない。和佳子さんは、明らかに私を受け入れていない。
悠さんが将来的に東京に戻る可能性があることに、私は気付いていなかった。悠さんは本妻の息子では無いにしろ、社長の息子であることは間違い無いというのに。今のような気楽な立場では無く、責任ある立場になっていくことは容易に想像出来たはずだ。考えるのを避けていたわけではない。想像が足りなかった。
大きなため息をついた。
「美咲…」
部屋に入ってから悠さんの顔を見れていない。目が合ったら私は、何を言えば良いのかが分からない。
「なあ、美咲…こっち、見ろよ」
悠さんが私の向かいにある、もう一つの一人掛けのソファに座った。顔を、動かせない。悠さんの顔を直視したら、理由は分からないけど、泣いてしまいそうだ。
「美咲!」
両肩を掴まれた。彼は私の目の前まで来てひざまづいていた。不安げな彼と目が合った。
「私、今日、何だかしんどくて…。お風呂、先に入りますね」
目を逸らしながら告げ、すぐに立ち上がった。浴室に逃げようとする私を、悠さんは強引に腕に閉じ込めた。
「悠さん、私…一人で頭の中、整理したいんです」
彼は腕を緩め、私を解放した。浴室へ向かう私に、彼は何も言わなかった。