対面 9
「美和!こちら、黒瀬さんと、もうすぐ奥さんの美咲さん」
黒髪ストレートの、姿勢の良い美人がこちらを振り返った。にこにこと会釈され、釣られて私もにこにこと会釈した。
「黒瀬です。お邪魔してすいません」
悠さんがよそ行きの丁寧語を使っているなんて貴重な瞬間だ。
「お邪魔だなんて…いつも主人がお世話になっております」
私もいつか、悠さんのことを主人って人前で言う日が来るのね。先にカウンターで頼んでいた生ビールと肉料理がテーブルに届いた。
「おい誠、主人、だって。こんな可愛い嫁さん、どこで見つけたんだよ?」
社交辞令だし、一ノ瀬さんの奥さんは確かに可愛らしい。でも、悠さんの口から他の女性を褒める言葉を聞くのは、ちょっと嫌かも。
「高校の同級生だったんですよ。昔、話したことあったでしょ?」
「え、あの、何年も引きずってた、その、彼女?」
「ちょっ、黒瀬さん、引きずってた、とか…。はい、その、彼女です。彼女、中学校の先生やってて、修学旅行でこっちに来たときに、再会したんです」
「そんなことあるんだな」
「俺ら、運命なんで」
慌てたり、顔赤くしたり、思いっきり惚気たり、見てて飽きない人だな。奥さんに至っては、慣れているのか、人前で抱き寄せられても構わずにそのままビールを飲んでいる。
「中学校の先生か。俺の奥さん、小学校の先生やってるよ」
悠さんの言葉に美和さんは顔を上げた。
「小学校、ですか。今は私も小学校なんです。何年生です?」
「人数のとっても少ない学校なので。一年生の算数とか2年生の国語とか、全学年の音楽と家庭科やってます」