理由 8
え?と顔を悠さんに向けると、彼は躊躇いなく言葉を放った。
「単純に、美咲以外の人は考えられない。逆に、美咲が他の人とっていうのは俺が嫌だ。それが全てかな」
涼しい顔で言い切る悠さんを目の前に、その場にいた全員が言葉を失った。彼の独占欲の強さを知っていた私に至っては、ただ固まるしかない。
「…悠の惚気って、いっつもストレートだよな」
勝雄さんが沈黙を破った。
「悠さん、惚気るんですか?」
「今みたいに、涼しい顔してさらっと惚気るんだよ」
「惚気じゃねえだろ。ただの会話じゃん」
不満そうに言葉を紡ぐ悠さんはランチを食べ終えた。「かっちゃん、俺もアイスコーヒーで」「はいはい」立ち上がると、勝雄さんはキッチンに消えて行った。
「この顔面で涼しい顔してさらっと惚気るって…。結城先生、幸せですね」
呆気に取られた顔のまま、白井先生は呟いた。
「はい、アイスね」悠さんにアイスコーヒーを手渡して、勝雄さんはまた安達先生の隣に座った。いつの間にか、他のお客さんは帰っていたようだ。
「俺、美咲ちゃんにも聞きたいんだけど」
「え?」
「悠の何が結婚の決め手になったの?」
「え、それ私も聞きたい!」
安達先生まで加勢する。
「そ、それはアルコール挟まないと、言えないというか…」
「私も聞きたいです。でも、先生達…そろそろ時間まずくないですか?」
白井先生の声に、壁時計を見る。お昼休憩の時間の終わりが迫っていた。そろそろここを出ないと時間までに職員室に戻れない。