理由 1
カランコロンと頭上で大きな鐘の音がする。思ってたより音が大きく、わかっていても少し驚いてしまう。
「いらっしゃいませ。お!美咲ちゃん、と…」
勝雄さんがもうはにかんでいる。いっそのこと、もう立ったまま追及したい衝動に駆られるけど、ここは我慢、我慢。見れば、安達先生も同じ表情ではにかんでいる。ああもう、ツッコみたくてしょうがない。
「安達先生?止まってないで進んでくださいよ」
後方にいるため、表情を見ていない白井先生が足を止めたままの安達先生に冷静に告げる。我に帰った安達先生が歩みを進めると、勝雄さんと目が合った。
「悠から聞いたよ。おめでとう」
「ありがとうございます。…ふふ、私もお聞きしましたよ。おめでとうございます」
「へへ、ありがとう。美咲ちゃん、今日は囲炉裏席しか空いてないんだけど…」
「そうなんですか。…二人とも、囲炉裏席でも大丈夫?」
「大丈夫ですよ。てかもう、お腹空いたんで囲炉裏でもお座敷でもどんと来いですよ」
白井先生は相当お腹が空いていたのか、ずんずんと囲炉裏席に向かった。ただ、先客がいた。
「あら、お嬢さん達。…あなたは、ご一緒したことありましたね。ええと…」
「美咲です。ご無沙汰しております」
囲炉裏席の常連トメさんご一行が既に囲炉裏席で食事していた。