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静黙 9
「結城先生は?その、彼氏とは…順調?」
「はい。おかげさまで」
あなたに手首を掴まれた現場を目撃され、嫉妬した悠さんに帰宅してからそれはそれは濃厚に、激しく愛されました。だなんて言いません、言えません。
何故か沈黙が降りる。包丁とハサミで牛乳パックをそれぞれ切る音だけが家庭科室に響いた。
「鈴木先生は家事とか、されるんですか?」
沈黙に敗北した私が話題を振った。
「家のことは…ほとんど、俺がやってる」
「え?奥様は?」
「奥さん、ずっと実家暮らしでさ。掃除も洗濯もやったこと無いって言ってやらないんだ」
「えっと…?やったことなかったらやってみればいいだけでは?」
「俺もそう言ってみたんだけどさ。ちょっとやってすぐやめちゃって。結局俺がやってるんだよね」
それは、この先大丈夫なのだろうか…?
言葉を失っていると、力無く鈴木先生は笑った。
「でも料理はたまにやってるよ」
「たまに、ですか…?」
「平日は奥さんが料理担当なんだけどさ。おばあちゃんがご飯持って来てくれるから実際あんまり奥さんは作ってないんだ。土日の担当は俺」