静黙 8
まな板の上に牛乳パックを置いて包丁で底を切る。先日ネット記事で偶然見つけた牛乳パックの手早い開き方だ。スコン!スコン!と調子良く開いていく。
順調に牛乳パックを開いていた私は、ふと鈴木先生の手元に目をやった。最初の切り口で苦戦している。それも、まだ1個目だ。
「あの、鈴木先生…?えっと…不器用、ですか?」
「うん。不器用」
包丁と牛乳パックから目を離さずに彼は答えた。だいぶ前からその牛乳パックはあったみたいだから湿気が原因ではない。カラッと乾いてたので、寧ろ切れ味は抜群だった。
「鈴木先生…ハサミに変えます?」
「その方が…良さそうだな」
ハサミ取ってくる、と告げて職員室に向かった彼に会釈して、どんどん牛乳パックを開いていった。
ハサミ持参で職員室から戻った鈴木先生は、やっと牛乳パックを切り始めることができた。
「鈴木先生、もうすぐお式でしたっけ?」
「そう。来週末」
お互いに作業を続けながら会話する。
「もう、一緒に住んでみえるんですか?その、奥様と」
「うん。別々に暮らす理由は無いからね」
上手くいっているようで良かった。こないだのあの一件は、アルコールによる気の迷いだったのだろう。