静黙 2
お通しの揚げ出し豆腐が美味しい。家で再現しようと何度か頑張ってはみたけど、大将の味にはなかなかならない。出汁が違うのだろうか。
一杯目がビールなのは私達の暗黙の了解で。生ビールではなく瓶ビールをゆったり飲むのが私達のお酒のルーティンだ。
蒟蒻の田楽の味噌もひと味違う。どこの料理教室に通えば大将のご飯に近付けるのだろうか?
「…美咲、難しい顔して食べてんな」
苦笑いしながらも優しい眼差しで私を見る悠さんのグラスはもうすぐ空になる。
「大将の味付けにどうしたら近付けるかなって、ちょっと考えちゃった。家で再現したくて」
悠さんのグラスにビールを注ぐと、一本目の瓶ビールが空になった。
「簡単に再現されちゃったら、また中々来てくれなくなっちゃうんじゃない?大将、もっと味付け複雑にしといてよ」
女将が笑いながら生春巻きをテーブルに置いた。
「女将」
「うん?悠くんどうしたの?」
「俺達、結婚するんです」
「えっ?えっ?…おめでとう!ちょっと、大将、悠くんと美咲ちゃん、結婚するって!ちょっと何か出してあげて!」
珍しく興奮する女将をちらりと見た大将は、冷蔵庫からお皿に盛られた料理を私達に差し出した。