静黙 1
「美咲の酒好きなくせに酒弱いのは、お父さん似だったんだな」
両親への挨拶を終え、私達の部屋に帰ってきた。
「夕食、どうしようか?今から作るのは大変だろうからデリバリーにする?」
早くも腕に包まれ、耳元で甘い声を囁かれた。唇を食むように重ねる彼は、デリバリーが届くまでに私を食べ尽くしてしまうだろう。
「悠、さん…今日は、大将のお店に、行きませんか?」
「大将?」
予想外だったのか、彼の手の動きも表情も止まった。
「そう、だな…俺達が結婚するってそれとなく報告しても、いいな」
「じゃあ、行きましょう」
帰ったら続きするからな、と耳元で囁かれ、頬が熱くなるのを感じた。
「いらっしゃい!…あら、悠くん。美咲ちゃんもお揃いで」
「女将、こんばんは。カウンター空いてる?」
「空いてますよ。最近、悠くん全然来なくなっちゃったから指定席は違う人に取られちゃってたのよ」
「すいません…美咲のご飯が美味しくて」
「あら、一緒に住んでるの?もう、お熱いんだから」
立ち話に花を咲かせる女将に大将が「女将、案内して」とボソッと告げた。
「私ったら、つい。そちらのお席どうぞ」
貫禄ある微笑みって安心感あるな。女将に勧められ、悠さんのかつての指定席に座った。