約束 6
「ただいま」
「おかえり、美咲」
その週の土日。私は単身で実家に帰っていた。
母には美香子叔母さんから桜汰の件が伝わっている。
母から何も聞き出さないということは、私が話すのを待っているのだろう。
私の部屋は水無瀬での職を辞した当時と変わらない。
いつでも帰って来られるってありがたい。
小学生の頃に買ってもらった学習机。高校生当時好きだったバンドのポスターを貼った跡のある、日焼けした壁紙。
かつて教科書類が入っていた本棚には、教員になった当初購入した関連書が入っている。教師としての心得や、伝説化した国語のおばあちゃん先生の本。通知表の所見の文例集と、県外の研究会で購入した五色百人一首の本。役立ったものもあれば、本棚の肥やしになっただけの本と様々だ。
思えば、青年部の仕事も結構あった。青年部の活動は今でいう婚活に近い役割があったそうだ。そこで大した出会いが無かった人にはただの負担でしかない。
子どもと関わる仕事であるはずだったのに、子どもと関係無い仕事のなんと多かったことだろう。ただでさえブラックな職場なのに、それに自ら拍車をかけて仕事を増やすだなんて、狂っているとしか言えない。