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暁天 2
「悠さんのおかげで、安心して過ごせました。本当に、ありがとうございました」
気を緩ませたら泣いてしまいそうで。泣きそうなのは気付かれないように、今できる最高の微笑みを作った。
「美咲…」
腕を引かれ、彼の胸が目の前にあった。
「今のままじゃ、駄目か?」
彼の低音が頭上に降ってくる。シトラスと煙草の混じった匂いに包まれるのが当たり前の日常になっていた。
「俺はこのまま、美咲と一緒に暮らしたい。美咲のいない生活に、俺はもう戻れない」
「でも私、このまま悠さんに甘える訳には…」
「甘えればいい。俺に甘えて、俺に守られて、それでいいじゃないか」
「甘えて、守られるだけの女は、嫌なんです。私、ちゃんと自立したいんです」
「俺が…いて欲しいんだよ。この家に。美咲のいない家に帰るなんて、俺やだよ」
「悠さん…」
私だって、この家を出て行きたくない。
でもだからといって、ただ養われているような、今の暮らしは悠さんに負担だと思う。
「俺、毎日、美咲の作ったご飯が食べたいんだよ。美咲のご飯じゃないと俺、元気出ない」