疼き 5
朝食を終え、食器を片付けて悠さんの隣に座る。
「美咲、こっち」
自らの膝をポンポンと叩き、目を細めて私を手招きしている。
そのまま膝に座る訳にはいかず。仕方無く、彼の脚と脚の間に座った。私を腕で閉じ込めると、私の肩に額を載せた。
「ごめんな。美咲に触れていないと話せそうもない。情け無い話だけど」
「そんなこと…」
これからずっと悠さんの声が息と共に鼓膜に響くのかと思うと、不謹慎だけど胸が高鳴ってしまう。
「誰にも、話したこと無いんだ。…俺に母親が2人いるって話は、したよな?」
「はい」
「俺が愛人の息子だって話も、したよな」
「はい」
「驚いた?」
「すごく」
「父の話も…したよな。クロセ製薬の社長だって話」
「はい」
唐突に別世界過ぎて驚愕だった。
「俺は愛人の息子として生まれた。本妻にも息子がいる。異母兄弟ってやつだな。だから俺が会社を継ぐことは無いんだけど、色々あった結果、俺はクロセ製薬の薬草の研究室に在籍してるんだ」
「はい」
「その愛人…俺の産みの母親なんだけど。俺を産んでしばらくは父が顔を見せに来ていたらしい。ところが俺が小学生になった辺りから父はあまり来なくなった。そこから母親はうつ病を発症した。俺に構わなくなった。でも、まだ小さかった俺は身の回りのことは大して出来なくてさ」
腕に力が込められるのを感じる。
「小学校の先生が異変に気付いて通報したらしくて。児童相談所に俺は保護されて。結局俺は黒瀬家に引き取られることになった」