表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/23

9 俺を食べてください(物理)

『そ、そうか……俺っちは姫のヨダレで生まれた……のか……』

「う、うん。なんか、ゴメンね?」


 現在私は気絶してしまったマンドラゴラズをベッドに乗せ、何故か彼らを必死に励ましていた。

 さっきとは立場がまるで逆転してしまっている。


『いや、いいんだ……本来は精霊姫の涙で生まれるって聞いていたんだが……いや、しかし……そうか……』


 なんだかさっきまでの勢いも(しぼ)んでしまったのか、遠い目をしているキャロライン。


 でも聞いていたっていったい誰から?

 生まれたばかりだよねキミたち……。



『と、ともかくだ。俺たちは、姫様を護り抜くことを使命とする!! だから困ったことがあったら、何でも俺たちに言いつけてくれ!!』

「え? 使命って……困ったことって急に言われても、なんていうか……」


 現在進行形で困っている真っ最中なんだけど。

 さっきまで住む場所の事であれだけ深刻になっていたのに、今じゃこの子たちの扱いで悩まされている。


 帰ってくださいと言ったところで、何処にって感じだし……。


「そもそも、私は食糧を得る為に種を育てたのよ。でもさすがに貴方たちを食べるわけには……」


 そういって九体のマンドラゴラズに視線を移す。


『キャロッ?』

『キャロキャロ~!!』


 見た目こそ同じだけど、それぞれが個性を持っているみたいで表情や仕草もさまざま。

 無邪気にベッドで跳ねたり、ゴロゴロ転がっている子も居る。


 キャロラインは相変わらず強面(こわもて)だけど、性格は案外話しやすい人(?)だった。

 最初はあれだけ不気味だと思っていたのに、こうしてみると愛嬌がある子たちだと思えてきた。


『生きる糧になることだって、姫の命を護ることに繋がる。だから俺たちは喜んでそれを(まっと)うするぜ? ましてや直接(あるじ)の為に食材になれるとあっちゃ、それは(ほま)れにしかならねぇからよ』

「そう言われても、何だか可哀想で……」


 たしかに私の夢は魔境グルメを開拓することだ。

 そのためには彼ら生き物の命を頂かなければならない。


『それとも何か? 姫は今まで生き物を食べたことがねぇのかい?』

「そんなことは無いけど……」


 今までお肉とかを食べてきたんだから、今更なのかもしれないけれど。

 自分の手で生き物の命を奪うという覚悟は、私にはまだ出来ていなかった。


『ならせめて、美味しくなるように料理してくれや。そんで、うめぇうめぇって喰ってくれ。俺たちマンドラゴラはそれで満足だからよ』

「……分かった。なら、よろしくお願いします」


 彼らの覚悟を、私の優柔不断な気持ちでこれ以上踏み(にじ)るわけにはいかない。


 深々と頭を下げた私を見たマンドラゴラズはうんうん、と満足そうに頷いていた。



 ――ぐうぅううぅ


「うっ……!?」

『キャロキャロキャロ!! 姫は俺たちを御所望のようだ。さっそく調理に行くとするか!!』

『『『キャロッ!!』』』



 うぅ、なんだか締まらないなぁ。

 でもさっきのジュースが本当に美味しくて、もっと欲しいとお腹がずっと鳴いている。

 ここは彼らの好意に従って、有り難くいただくとしよう。



 キッチンへとやって来た私は燭台にあるロウソクに火を点けて、テーブルの上を軽く片付ける。

 もう夜になってしまったし、今日は簡単にサラダを作ろう。


「ありがとう。大事にいただくね」

『キャロッッ!! ……キャロ!?』


 一番乗りを上げてくれたマンドラゴラを抱え上げ、私はお礼を言ってキスをする。

 私なりの感謝と……祈りだ。


 するとみるみるうちにその子は真っ赤に染め上がり、ガクッと脱力してしまった。


「あ、あれ?」

『姫も案外大胆な事をするんだな……』


 揺すってみても彼はそれっきり、動かない。

 どうやら今のキスで息を引き取ってしまったらしい。


『キャロッ!! キャロキャロ~!!』

「ど、どうしたのよキミ達? ちょっと、テーブルに勝手に乗ろうとしないで!!」


 それを見た他のマンドラゴラズが騒ぎ始めてしまった。


 あれ? やっぱりマズかったかな……?


『おい、お前ら!! 自分も姫に褒美のキスをされたいとか、食べられたいとか立候補するんじゃねぇ! ちゃんと順番を守れ!!』

「……本当に食べられることを誇りに思っていたのね。でも今日は一人で大丈夫よ、ありがとう」


 何しろ、マンドラゴラ一体で私の膝ぐらいの身長がある。幼児ぐらいの体格もあれば、私一人が数日かけて食べる分には十分な量だ。



 すっかり大人しくなったマンドラゴラを机の上に乗せ、包丁代わりのナイフでサクサクとスティック状にカットしていく。


 中身は人参のようにしっかりと詰まっていて……うん、内臓は無いみたい。良かった、血抜きとかワタ抜きとかしなくて済んだわ。


 流石に同族の目の前で、スプラッタなことはしたくないものね……。



 そうして切る作業を続けていく。

 大して時間もかからず、マンドラゴラは野菜スティックへと化した。


 ――よし。

 簡単な調味料はあるけれど、まずは何もつけずに食べてみよう。



「いただきます!!」

『おう、召し上がれ』


 指でスティックを掴み、あーんと口の中へ。


「……こ、これは!!」


 ――甘い。

 とんでもなく甘い。

 さっきのジュースも相当な甘さだったけれど、これはまた別格だ。


 ただ切っただけ。何も手を加えずに食べただけなのに。


 あぁ、こんなに甘い野菜があっただなんて……!!



「これは……売れるわ。ここでキャロたちを育てて売れば……」


 いえ、これを使って食堂を始めれば私も食べられるし、一石二鳥よね!?

 幸いにも種はまだたくさんあるし、育つのもあっという間。


 ……うん、素晴らしいアイデアだわ。

 我ながら完璧な図式!!

 うふふ、やれるわ!! やるしかない!!



 気付けば私は、フォークを掲げてババーンと仁王立ちしていた。

 マンドラゴラズも周りでパチパチと拍手で応援してくれている。


 ふふふ、名付けてジュリアの魔境食堂。

 私がオーナーで、マンドラゴラズがアシスタント兼、食材ね!


 そうと決まればさっそく準備に取り掛からねば。

 取り敢えず、明日はその開店準備の為に村へ向かうわよ!!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ