20 魔族同士のたたかい
『オラァ、覚悟しろよ猿坊主ゥ!!』
『……ちっ、魔族の癖に人間に肩入れする気か裏切り者めっ!! こいっ!!』
武器も持たず、素手でレモンキーへと突貫を掛けるキャロ。対するレモンキーも拳を構え、やれるものならやってみろと挑発する。
クロードを吹っ飛ばした相手に、果たしてキャロはどう対抗するのか!?
「幻想種のマンドラゴラ……精霊とも言われるぐらいだし、何か特殊な魔法を使うのかしら……」
見た目はアレだけど、おとぎ話になるぐらいだ。きっと秘められた特別な力があるに違いない。
いや、無くたっていい。キャロは私を守ろうとしてくれたんだもの。たとえどんな結果になろうとも、私は彼の戦いを見守るわ……!!
クロードの傍で私は、固唾を飲んでこれから始まるであろう死闘を見――
『歯ァ、喰いしばれこんちくしょうぅううっ!!!!』
『うおぉぉおおおっ!?』
「(ええぇええぇええ……)」
魔法を撃つ気は微塵もねぇ、とばかりに右手を振りかぶり、そのまま前へと打ち出すキャロ。
手がちっちゃいので殆ど見えなかったが、体重の乗った右ストレートに違いない。対するレモンキーも、力強く握りしめた右拳をキャロの左頬(?)へと突き出した。
ズン、と両者から鈍い音が鳴り響く。
それと同時に、キャロの口からはジュースと同じ液体が。レモンキーからは、黄色い血(?)が噴き出した。
殴られた衝撃で意識が飛んだのか、お互いに一瞬だけ硬直し――今度は左の拳が、間髪入れずに再び右拳が飛び出す。
その後も右、左とリズム良く、互いのパンチが連続で繰り出されていく。どれだけ良いパンチを喰らおうとも、どちらも決して膝を突くことない。
人外同士による、ガードの一切ないラッシュの応酬が飛び交った。
『『おらああぁああっ!!』』
魂の篭もった雄叫びが上がり、体液が舞う。
バキッ、ボコッと凄まじい音を立てながら殴り合う二人を、私はただ呆然と見つめていた。
「な、なにこれ……?」
「これが魔族の戦いなんだろう。恐らく魔族は種族同士で争った時、こうやって勝敗を決めるんだ」
「そ、そうなんだ……」
色々とツッコミたいところはあるんだけど……。でもクロードが言いたいことは、私にも何となく察することができた。
つまりこれは、魔族という種を守る為なんだろう。
いや、人間の国だってそうだ。
根絶やしレベルで全面戦争をやれば、負けた方は文字通り焦土と化してしまう。戦争の目的にもよるだろうけれど、そこまでやってしまったらあまり旨味が無い。
魔族なんて特に特に住める場所なんて限られているから、折角の生存圏を狭めるような蛮行は避けるのは当然だ。種族の人口だって、人間と違ってそこまで多くないんだし。
結果的に行きついたのが、互いに代表者を出してその者同士で決着を付けるということ――つまり今も目の前で繰り広げられているような、正々堂々とした決闘なんだろう。
そう考えると、キャロもレモンキーも種族の代表として立派なことをしている……のかな?
ようやく私の理解が追いついてきたところで、戦況が大きく動いた。
鋭い左フックを受けたレモンキーが、グラっとよろめいたのだ。
隙を作らないために苦し紛れのカウンターを仕掛けるも、その拳は大きく空を切る。
もちろん、キャロはこのチャンスを見逃さない。
カウンターに対するカウンター……懐に入り込んでの渾身の右ストレート。それを避けることなく、顔面にモロに喰らったレモンキーは後方に吹っ飛んだ。
錐揉み回転をしながら弧を描き、先ほどのクロードのように木にぶつかり――ズルズルと落ちていく。
――あぁ、これで決着だ。
そのまま彼は地面に転がっていき……ピクリとも動かなくなってしまった。
上手くキマったぜ、とボコボコの顔でキメるキャロ。
呆気にとられる私たちと仲間のレモンキーたち。
いや……なんていうか、凄かった。
クロードに土を付けた相手を倒したんだから、そりゃあ凄いと思う。
小柄なレモンキー以上に、キャロがパワーを持っているのは凄いけど……ここは敢えて、私は言おうと思う。
――ぜんっぜん精霊っぽくないんですけど??
……うん、なんとなく分かってはいたよ?
だけど想像以上にマンドラゴラって、意味が分かんない。
「凄いな、団長……」
「え? あ、うん……そうだね……」
クロードは目を輝かせてキャロを見つめている。なんだろう、男の子的にはあぁいうのに憧れるんだろうか。
「マジでカッコイイ。俺もあんな男になりたい」
「……種族的にはなれないし、クロードはそのままで良いと思う」
個人的には変わらないでほしい。
ていうかクロードまで変にならないでほしい。
お願いだから、私を置いてそっち側に行かないで。
戦いは終わりを告げた。
だけど隣りに居るはずのクロードが、どこか遠くへ行ってしまいそうな不安に襲われる私なのであった。