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10 大人げない英雄たち

 夜が明けた次の日。

 とある目的のため、私はキャロと一緒に村の中央通りをトコトコと歩いていた。


 食堂を開くにしても、まずは拠点が必要。

 だから教会の補修をどうにかしなくてはならない。



「さて、この魔境で大工さんが見つかると良いんだけれど……」

『キャロキャロ。この通りはあんまり人が居ねぇんだな?』


 人間領と魔族領の境界にあるから魔境村。

 だけど村と言う割には、キャロの言うようにあまり人の気配が感じられない。

 

「村の中心から魔境側の半分は軍の駐屯地なんだって。要塞でも作るつもりなのかしらね?」


 北側――私から見て右手側――には、立派な金属製の柵が村の東から西までずらっと張り巡らされている。どうやらこの柵の向こう側に軍の拠点があるみたいだ。


 この村が作られた元々の目的は、魔族領からやってくるモンスターの侵攻を抑えること。

 そのためにファウマス王国が軍を使ってこの村を建設したって聞いている。


 そしてその反対側。

 村の南半分には、傭兵たちが住む簡易拠点が立ち並んでいた。


 傭兵たちは魔王討伐の足掛かりとするために、国から雇われてここにいる。

 こっちは北側に比べて質素なのは……うん、たぶん檻みたいな柵が嫌なんだろうな。


「……でもこれを全部、あの酔いどれなブルーノートさんが考えたって本当なのかなぁ」

『へぇ。そんなスゲェ兄ちゃんなのか。これから会えるのが楽しみだぜ!』


 ニヤッと不敵な笑みを浮かべ、マンドラゴラのキャロはまだ見ぬ英雄を想像している。


 ――うーん、変わっている人同士を会わせても大丈夫なのかしら……。


 一抹の不安を抱えつつも、私は歩く方向を変える。

 軍の方には極力近寄りたくないので、私は人間領側、つまり傭兵の住む南側へと向かうのだ。

 目的地はブルーノートさんが居るであろう酒場である。



『こっちの方が人は多いんだな』

「そうね。これでも半分ぐらいの人は魔族領に遠征中らしいけど」


 中央の通りとは打って変わって、こちらではあちこちで人が見受けられた。


 国に雇われているとはいえ、普通は傭兵たちが軍の管理地を勝手にウロウロすることは出来ない。にもかかわらずある程度自由に振る舞っていられるのは、あのブルーノートさんのおかげだった。

 竜騎士としての彼は、それほどまでに信頼を置かれているらしい。


 まぁ傭兵たちも好き勝手しているばかりじゃない。

 食料や物資の現地調達、そして命を賭して前線を押し上げていくという役目がある。

 そういう互いの役割を果たすことで、軍と傭兵たちは割と友好的に過ごしてきたようだ。



 だけど罪人の扱いでここへ流刑された私は、あまり軍人さんには頼りたくない。


 なにしろ前線の軍を率いているのは、私が助けた(?)ヘインター殿下の弟君なんだそうな。つまり、この国の第二王子様がこの村に居るのだ。

 家族の命の恩人とはいえ、きっと私のことは良く思われていないはず。


 だからここはやはり、ブルーノートさんたちを頼らせてもらおう。




「……というわけなんです」

「マジか!! ジュリアが食堂をやってくれりゃあ、ここの奴らは大喜びだぜ!!」


 昨日聞いておいた酒場にやって来た私は、事情説明がてらさっそく相談に乗って貰っていた。


 予想通り、ブルーノートさんは真昼間からお一人様で宴会中だ。


 簡単に作られた壁際のカウンターには、大量の空き瓶が転がっている。他にも食べっぱなしのお皿、誰かのナイフ、下着なんかまで……

 誰も掃除なんてしないのか、ありとあらゆるものが汚い。


 ……酒場というよりも、私にはただの不良の溜まり場のようにしかみえなかった。


 とはいえ、他の人たちは流石にこんな昼間っから飲んでいない。ここに居るのは竜騎士メンバーだけで、傭兵たちは外で真面目に鍛錬をしている。



「俺たちゃイチイチ凝った料理なんてしねぇからよぉ。いい加減、ただの焼いた肉には飽きてきたところなんだ。なぁ、バンズ?」

「あぁ。俺らは切ると焼くしかできねぇからなぁ」


 そう言ってバンズさんはフォークに刺さった美味しそうな生ハムを、ひと口でムシャリと頬張った。

 良いなぁ、あとで私にも分けてもらえないかな。


「ちょっと、僕を貴方たちと一緒にするのはやめてくださいよ」

「そういうラパティは煮るしかできないだろう?」

「クロード! 貴方まで敵に回る気ですか!?」


 まったく、いい歳した男が何をギャーギャーと騒いでいるのよ。

 大人の喧嘩を見せられている私は、苦笑いを隠せない。


 この人たちって、いつもこんな感じなんだろうか。

 王都の街で見かけた悪ガキたちと、殆どやっていることが一緒じゃないの。


 そんなことを思いながらも、私は皿の上の生ハムへとコッソリ手を伸ばすのであった。



ご覧くださり、ありがとうございます。


今回で10話を達成致しました!!

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