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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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魔法先生と母親候補 - ユークリッド

魔法や剣の稽古を始めてから3日が経ちました。

とりあえずお義父様から教えて貰った魔法は習得してしまったので、主に剣術の手ほどきを中心に受けるようになりました。

とは言え、お義父様もカタナは初めて見るので握り方からよく分からないため、私が握りやすい、構えやすい姿勢で良いと言ってくれます。

とりあえず無意識に握って構えてみた感じでは、柄に右手を上に、左手を下に両手握りで正眼に構える姿勢が一番しっくりきました。

この構えで上段から振り下ろす形で毎日素振りをしています。

ちなみに私のカタナの名前は『コテツ』です。

由来とかは無く、何となく頭に思いついた名前でした。お義父様の豪槍「エクシード」のように、愛用の武器には名前を付けるのが貴族種の間では普通なのだそうです。


そして3日目。


お義父様は今日もちょっと用事があるらしく領地の境まで出かけて不在です。

そのため、今日からはついに噂の妃候補さんが私の魔法の先生として屋敷に通ってくれることになっています。

今は約束の時間まで庭でコテツを振っています。

一応、魔法の勉強とは別に、剣の修行もお義父様から課せられている1日のノルマがあるので、こなさなくてはいけません。

最近は暇さえあれば、本を読むか、コテツを振るか、をしています。

「ふん!ふん!ふん!」

稽古を始めた頃に比べれば大分スムーズにコテツを振れるようになってきました。

「お嬢様」

「ふぅ……はい。なんでしょうか?」

「グラヴィス様がいらっしゃいました」

母様が、来客を伝えてくれます。

母様も最近は少し落ち着いてきて気持ちにも余裕が出てきたように見えます。良い傾向ですね。メイド服も様に成ってきました。

使用人のメイド服は赤基調なのですが、使用人見習いは同じデザインで緑基調です。母様は緑色が好きなので、見習い服の方が気に入っているようです。

「わかりました。こちらに通してください」

「承知いたしました」

母様が下がっていきます。

うぅ……なんだか緊張してきました。

緊張を紛らわすために、もう少しコテツを振っていましょう。今日のノルマもまだこなせていないですし。

「ふん!ふん!ふん!」


そうこうすると、一旦下がった母様が戻ってきます。噂の妃候補を連れてきてくれます。


「お嬢様。グラヴィス様をお連れいたしました」

「はい。ありがとうございます」

母様に続いて静かに庭に降りてきたのは聖職者のような白いローブを纏った女性でした。

年は私よりも3つ上の16歳と聞いていましたが、身長は私よりも少しだけ高いぐらいでそれほど大きくは変わりません。

ローブから覗く腕は細身のスラッとした形をしており、顔の輪郭もシュッとシャープでとても整った容姿。絹糸のように柔らかく動くたびに煌めいているかのような錯覚を覚えるほどに綺麗な銀髪を長く伸ばして、後ろで緩く束ねています。

目は大きいですが、目尻は少し垂れた感じがとても優しい雰囲気を出しています。

全体的に物腰の柔らかそうなちょっと年上のお姉さんという印象です。

あと、先日お風呂でお義父様が仰りやがった胸の大きさは………ゆったりした衣装の所為で、残念ながら確認できません。

「…ユークリッド様?」

グラヴィス様が小首を傾げます。しばらく凝視してしまっていたみたいです。少し心配そうに見られてしまいました。

「あ…申し訳ありません。えっと……私と同じぐらいの年頃の蒼い血の方を見るのは初めてだったのでつい……」

「ふふふ、確かに若い年の蒼い血の者は希少ですから。ユークリッド様よりも3つ上にはなりますが、長命のナイトウォーカー種では3つなどほぼ無いに等しい差ですので、同年代として仲良くして頂ければと思います」

あれ?私も昨日知ったばかりの自分の年齢の事を知っていますね。

「グラヴィス様は私の事を知っているのですか?」

「はい。ユークリッド様の事はかねがね噂を耳にしております。大変強い意識の持ち主だとか、大変優秀だとか、大変愛らしいとか」

「うっ………その噂は?」

「ふふふ…勿論フォーティス様からですわ」

やはり出所はお義父様ですか……。

どんな事を言っているのか、詳しく聞いてみたいような、聞くのが怖いような……。

「あとユークリッド様、私に様付けは不要です。グラヴィスとお呼びください」

「え、でも……」

「領主の娘と神殿長では、身分に差があります。何より我がヴィリ家は元来はクラウサ領主家に仕える主従関係の家柄です」

「……分かりました。でもそれなら私の事もユークリッドと呼んでください」

「えっと……それはちょっと…」

「同年代の友人は名前で呼び合うものだと思います」

ちょっと意地悪な返しをしてみます。

グラヴィスはそんな私の内心を察したのか、少し苦笑いを浮かべました。彼女は苦笑いでも絵になりますね。

「……そう言われては反論しようがありません。わかりました、ユークリッド。でもフォーティス様の前ではお互いの立場は弁えないといけませんから『ユークリッド様』と呼びます。宜しいですね?」

「はい。仕方ありません………あ!」

「?」

私は大事な事を飛ばしていました。

剣の訓練をしやすいようにズボン姿でしたが、慌ててカーテシ―の仕草をして正式な名乗りを上げます。

「私の名はユークリッド・ル・クラウサ。天高くそびえる四方山脈に囲まれしクラウサの地を治めるフォーティス・ル・クラウサの娘。

どうぞお見知りおき下さい」

先日、お義父様から教わったばかりの貴族種の間での正式な挨拶だそうです。

クラウサ家の者は皆、同じ挨拶らしいです。早速使ってみました。

「これはご丁寧に。

私の名はグラヴィス・リ・ヴィリ。天高くそびえる四方山脈に囲まれしクラウサの地を治めるフォーティス・ル・クラウサに仕えし者。

どうぞ宜しくお願い致します」

私の付け焼き刃のカーテシ―ではなく、とても優雅な所作でスカートを摘まんでカーテシ―をしてみせます。

やはり本当の貴族のお嬢様は動きが違います。私ももっと練習しないといけません。お義父様に恥をかかせる事になってしまいます。


とりあえず挨拶はこれぐらいにして、立ち話もなんですので、庭のテラスにあるテーブルへと案内します。

母様がいつものトマトジュース(仮)を準備してきてくれていました。

それを私とグラヴィスの前に並べます。

普段は率先して飲もうとは思わないのですけど、直前までコテツで素振りしていた上に、グラヴィスの前で緊張しているのか、無性に喉が渇きました。

渋々、軽く一口含むぐらい飲みます。

………トマトジュース(仮)のくせに、色々な渇きが癒されるのがちょっと癪ですね。

「ユークリッドは血を飲めるようになったのですか?」

「えっと……もしかしてそれも――」

「はい。フォーティス様から伺いました」

「………私のコレはトマトジュース(仮)という飲み物なのです」

「え?トマト?」

「トマトジュース(仮)です。血とは違って、トマトジュース(仮)は飲みやすくて美味しいです」

「え……あぁ…」

私の言葉に何となく察したらしいグラヴィスは、私を見て微笑みながらもそれ以上は追求してきませんでした。

彼女もトマトジュース(仮)を軽く口を付けてから会話を続けます。

「ユークリッド。私はフォーティス様から魔法の指導を依頼されてきましたが、フォーティス様からのこれまでの魔法の指導は如何ですか?まだ指導は続いているのでしょうか?」

フォーティスと言うのはお義父様の名前ですね。呼び慣れていないので咄嗟に名前と顔が結びつきませんでした。

「えっと……お義父様はあまり魔法が得意じゃないみたいなので……」

「ふふふ、早々に魔法の鍛錬を切り上げて、剣術の稽古ばかりですか?」

「ええ、そうです」

よく分かっていらっしゃる。流石は妃候補さんです。

「では、私からはもう一度基礎から順にお教えした方が良さそうですね」

「はい!是非お願いします。私はもっと色々な魔法が使える様になりたいです」

「ちなみに、フォーティス様からは何の魔法を教わりましたか?」

私は指折り、順に覚えている魔法を挙げてみます。


『アウグ(火球)』

『フィジカル・コンフィルマ(身体強化)』

『サニタス(治癒)』

『アニオス・サニタス(他者治癒)』

『フィルマニータ・ナトラ・サニター(自然治癒強化)』


あとはアーミークトース(装着)とリアリゼーション(具現)ぐらいでしょうか。

「ふふふ、アウグ(火球)が最初に出て来るあたりがフォーティス様っぽいですね」

「これ以外の魔法も色々教えて下さいね」

「ええ、分かりました。これは教え甲斐がありますね。ただ、時間はたっぷりあります。先ほども言った様に基礎からしっかりやりましょう」

「分かりました。何事も基礎が大事ですものね」

「はい。それではまず………魔法とは、何か分かりますか?」

哲学かな?

いえ、これはおそらくそういう事ではないですね。魔法とはどういったものか。という概念を説明しろって事でしょう。

「体内の魔力を利用して、現実の理に干渉して、自然には発生し得ない虚実の現象を発現させる手法……でしょうか」

「うん。ほぼ満点です。フォーティス様から教わったのですか?」

「いいえ。自分で書物を読んで勉強しました」

「勉強熱心で大変結構です。

ユークリッドが言ったように、魔法とは自分の魔力を消費して効果を発現させます。しかし魔力は人によって体内に宿す量は違えど、有限です。高位の魔法を高い効果を出して発現させるには、どれだけこの魔力を効率よく、そして素早く練りだして魔法へと変換させるかが重要です」

私はその魔力を練り出す部分について、お義父様から言われた感覚の話を伝えます。

「なるほど。フォーティス様の言われている感覚は多少抽象的ですが、間違ってはいません。

一般に、魔力は自分の身体の中の血に宿っていると言われています」

「血ですか?」

「はい。血が関係しているので、血と関わりの深いナイトウォーカー種は、魔力が高く、魔法が得意な者が多いと言われています」

確かに種族に関する書物にも似たような事が書かれていましたね。

「ですので、

フォーティス様の仰られる身体の奥の魔力の塊とは、無意識かもしれませんが心臓をイメージされているのだと思います。

そこから絞り出すというのは、血管を通して魔力を取り出す。

という事だと思います」

なるほど。お義父様は完全に感覚で習得されていたみたいですけど、理論的にも間違ってはいないようです。

「ただし、私はこれをさらにもう一歩進めた方法で魔力を使っています」

「もう一歩進めた方法ですか?」

「はい。先程話しように魔力は血に宿ります。心臓に血が大量にあるのは確かにそうなのですが、実際には血は身体の末端まで広がっています。これら末端の血液の中の魔力も残さず使用するために、魔力を身体の奥の塊ではなく、身体全身に広がっている木の根のようなイメージを持つようにしています」

「それで全身の魔力を残さず効率よく使うという事でしょうか?」

「ええ、そうです。私個人としては、他の貴族の方々よりも魔力の量がそれほど多いわけではありません。それなので昔から魔力の効率を上げる事を研究してきました」

そう言ってグラヴィスはテーブルの上で手を広げます。するとその手の平に小さな火球が出現しました。

確かに魔力を使って火球を出していますが、彼女の身体に巡る魔力に流れのようなモノは感じませんでした。おそらく手の平に残留する微細な魔力だけで発現させたのだと思います。

私は早速、右手をテーブルの上に広げます。

いつもは身体の中心の塊から絞り出して魔力を得るイメージだけど、今はその塊からは魔力を一切取りません。

右腕の中に魔力の細い根が張り巡されている事をイメージして、その根元――肩の方から絞るように少しずつ魔力を手の先に集めてみます。

……ほんの微かですが、魔力を感じます。

『アウグ(火球)』

感じた微かな魔力を燃やして火を起こします。

手の平の上に小指の先ぐらいの小さな火の玉が出現します。

それはチリチリと燃えているだけで、これで何かが出来るわけではないとは思います。葉巻の火を付けるぐらいでしょうか。

「わっ!?出来た?出来ました!グラヴィス!右腕の魔力だけでも魔法が使えました♪」

小さい魔法でも、何か自分が1つ新しい領域に入れた事が嬉しくて笑みが浮かんでしまいます。

自分の成果を見て貰おうとグラヴィスを見ると、その彼女の顔には驚きの表情が浮かんでいました。

「グラヴィス?」

「ゆ、ユークリッド……あなた…」

グラヴィスが突然私の右腕を握ってきます。

間一髪、『アウグ(火球)』の魔法を消します。危なかったです。小さな火種とは言え、魔法を消さないとグラヴィスの肌を焼くところでした。

そんな事はグラヴィスも分かっているだろうけど、そんな事は気にもしていないのか、私の腕をさすさすと擦ってきます。

……ちょっと擽ったいですね。

「……グラヴィス?」

「ユークリッド。本当に貴方は先日魔法を教わったばかりなのですか?」

「はい」

「僅か数日の経験で……いえ、逆でしょうか……変な固定観念が無い分だけ………」

そして何かブツブツとつぶやき始めました。


………。

………。

………。


「………失礼しました」

とても恐縮して小さくなっているグラヴィス。

5分ほど色々つぶやきながら私の腕を調べていたグラヴィスがようやくこちらに戻ってきて落ち着いてくれました。

その間、私はグラヴィスの為に大人しく右腕を差し出してました。

「ううん。グラヴィスは本当に魔法について真剣なんだなと感心して見てました」

「ぅ……恥ずかしいところをお見せしました……」

本当に恥ずかしそうにしているグラヴィス。全然恥ずかしい事なんか無いのに。

「……しかしユークリッドの魔法の才はフォーティス様にも聞いていましたが、間違いなく天賦の才です」

て、天賦の才!?

お義父様、一体何をグラヴィスに吹き込んでいるの?

「私が絶対に一流の魔法使いに……いいえ、国で一番の魔法使いにしてみせます!」

「よ、よろしくお願いします」

恥ずかしがっているのが一転、私の両手を握りしめてググッと迫ってきて、ちょっと腰が引けてしまいました。

……何でしょう。この勢い…どこかお義父様を思い出します。



その後は気を取り直して、魔法の基礎知識を色々と教えてくれました。


魔法は全て24の系統に分かれていること――

魔人には生まれながらの加護の他にも、その人に適した系統があること――

逆に習得が困難だったり行使できない系統がある場合もあること――


「――それでは明日からは1つずつ魔法を教えていきますね」

一通り、基礎の話を終えたグラヴィスが言いました。

「はい。分かりました」

「うん。さて、それでは――」

今夜の魔法の講習はこれで終わりですかね。

「――今夜の本題に入りましょうか」

……え?本題?

「ええ。今夜は魔法の講師は勿論ですが、

もう1つ、とても大切な目的があってお邪魔させていただきました」

そう言って、ずっと後ろで控えていた母様の方を見て、薄く笑みを浮かべます。

「何でもユークリッドの産みの母親が屋敷で使用人をしているとか。大変興味があるので、私にも紹介していただきたいです」

紹介も何も既に母様をロックオンしているではないですか。

母様もグラヴィスに見られて萎縮して身体を小さくしています。

「…えっと……母様の事も?」

「ええ。フォーティス様に教えていただきました」

流石は未来の妃様。未来の夫との仲は宜しいようで……。

「……薄々気が付いていると思いますけど――」

テーブルの下で汗を掻いている手をギュッと握りしめ、私は席を立ち、母様の横まで移動します。母様が少し不安そうにこちらを見ていました。

大丈夫。何かあっても私が守りますから。

「えっと…彼女が私の産みの母親。エバンです」

「エバンです」

母様が90度腰を曲げて深く頭を下げます。

グラヴィスは少し目を細めてそれを見ています。

「やはりそうでしたか。

……彼女は会ったことが無い使用人だった上に、フォーティス様から聞いていた特徴通りなので、そうだろうなとは思いました。それに顔立ちが何処となくユークリッドに似ている気がしましたし」

「彼女は今はこの屋敷で使用人見習いとして働いて貰っています」

「……私の記憶が確かならば、紅い血から蒼い血に覚醒した者は肉親を食して、覚醒後の不安定な力を整えると聞くけど、何故かユークリッドは食べなかったそうですね」

「はい。父親は食しましたが、母親とは――」

私はまだ頭を下げ続けている母様の手を握ります。

「――この通り、良好な関係でいたいと思っています。食べたいとも全く思っていません」

「……」

母様の手が凄く震えています。

私も手が震えそうなのを抑えてギュッと握り返します。

お義父様は認めてくれたけど、それは紅い血の者に寛大だからというよりは、目を掛けている私のお願いだったから聞いてくれただけだと思っています。

もしグラヴィスに否定されれば、命を取られないまでも、屋敷で仕事をする事は難しくなるかも知れません。

何せ彼女は、将来はこの屋敷の事を取り仕切る領主夫人候補なのだから。

「聞いていると思いますが、お義父様からはこの屋敷で働くことの許可を貰っています。だからグラヴィスにも認めてもらいたいです」

「認める?」

不思議な事を聞く。と顔に浮かんでいます。

確かに普通の蒼い血の者の発言ではないのは、何となく自覚しています。それでもこれは譲れません。

もう一度、母様の手をギュッと握り返して言います。

「はい。母様がこの屋敷で使用人見習いとして働く事を――」

「認めていますよ?」

「――え?」

グラヴィスの顔は相変わらず不思議そうです。

「そもそも認めるも何も……私の今の立場はフォーティス様の家臣というだけ。フォーティス様が認められたのならば、反対など致しません。

それに私個人としても構わないかなと思っています」

あれ?蒼い血の人からは基本反対されるものと思っていたけど、以外にもグラヴィスも容認してくれるみたい?

「いいえ『構わない』ではありませんね。『良い』と思います。私はお二人の関係を素晴らしいと思っています」

「すばらしい?」

「ええ!蒼い血や紅い血などの種の垣根を越えて、母子の関係を維持しようとする姿。娘は紅い血の母親の身を案じ、母は蒼い血になった娘の行く末を案じ……互いが相手を事を大切に思う姿……とても素晴らしいと思います!」

先日、浴場でお義父様がグラヴィスの性格について言っていた事を思い出しました。とても紅い血に対して大らかだと。

「エバンさま…といいましたか?」

「は、はい。グラヴィス様」

母様が私の手を離して、地面に跪きます。

「蒼い血になった娘を愛し続けるその姿勢。大変感銘を受けました。ユークリッドは蒼い血になったばかりですし、年もお若いです。側に居てしっかり支えて上げて下さい」

「はい!……ありがとう…ございます」

母様は再び深く頭を下げます。肩も震えているのが分かりますが、これは先程のように恐れからではなく、喜び?歓喜?そういったものだと感じたので、今回は手を握ってあげる必要は無いですかね。

「…それとユークリッド」

「はい?」

「聡明な貴方なので薄々理解しているとは思いますが、基本的にはエバンさまのような存在を蒼い血の者が認める事はありません。人によっては気に食わないという理由だけで紅い血の者を手に掛けます。蒼い血と紅い血の者の関係とは普通はそういうものです。

フォーティス様はユークリッド可愛さに許可を出したでしょうし、私は…ちょっと他の蒼い血の方々とは感覚が違うため忌避の気持ちは持ちませんでした。しかし他の蒼い血の方々が同じである可能性はとても低いです。気をつけて下さいね」

「はい。分かっているつもりです。母様の事は私が守ります」

「…ユークリッド様」

グラヴィスが顔に慈愛を浮かべています。彼女にはこういった表情が似合いますね。

「よろしいです。まあ、少なくともクラウサ領内ではその手の心配ありませんよ」

そう言ってニコリと微笑んでくれました。


こうして妃候補グラヴィスとの最初の歓談が終わりました。

「明日、また同じ時間に」と言って帰って行くグラヴィスを玄関まで送っていきます。

母様はそんなグラヴィスに感謝も込めてだろう、深く頭を下げてずっと見送っていました。

しかし、緊張しっぱなしだった母様は気が付いていないようですが、私はちょっと気になっている事を聞きそびれてしまいました。


何故、グラヴィスは母様の事を『エバンさま』と呼んでいたのでしょうか?

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