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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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引きこもりと出たがり 4 - ユークリッド

そう言って始まったバルア様の語りですが、私が半身を失った場面などはギルクくんは自分の事のように身体を抱きしめて、痛みに耐える表情を浮かべています。

しかし一転、その危機的な状況を三重魔法を駆使して乗り切る場面などは目を輝かせています。


横で自分の話を聞きながら改めて考えます。

確かにあの『フィジカル・コンフィルマ・オムニス(身体強化・全)』『フィルマニータ・ナトラ・サニター(自然治癒強化)』『アウグ(火球)』を同時に行使した――三重魔法というのですか。三重魔法は私には相性が良いかも知れません。

魔法の師匠であるグラヴィスが言うには、私が内包している魔力量は蒼い血の者の平均とそう大差ないそうです。ただしそれを無駄無く効率よく使う術が私はとても上手だと褒めてくれた事がありました。そして普通なら身体から滲み出るように自然拡散してしまう魔力を抑える『対魔』の加護も相まってさらに高い効率で魔法の効果を現出させることができます。

実際に、先の戦闘でも身体的に苦しい状況ではありましたが、同時に複数の魔法を行使しても魔力切れに苦労することはありませんでした。

それに三重魔法を使うようになってから、自分の戦闘力が今まで越えがたかった壁を越えて、1つ上のステージにあがったのを実感しました。

身体が治ったら、すぐにでも三重魔法の訓練メニューをグラヴィスに追加して貰いましょう。

そうしたら将来は四重魔法も使えるようになるかも知れません。

気持ちの半分は将来に向けてのワクワクな楽しみと――

もう半分は今、思うように動けない苛立ちと――


まだ半分しかない自分の右腕をもどかしそうに眺めているうちに、バルア様の話は佳境を迎えていました。

「――ユークリッド姫は戦線の先頭に立ち、目にも止まらぬ速さで世界敵を翻弄し、その勢いを押し返して峠の頂上を取り返しました。

その上で、再び襲い返そうとする目下に並ぶ世界敵達に対して、戦神かくやあらんと思うほどの闘気と眼力で、恐れ知らずのかの者達を震え上がらせたのです。

そして、その後ろ姿を拝見していた私やクラウサの紅い血の兵士達は折れかけていた心を再び奮い立たすことができたのでした」

それにしてもバルア様はお話が上手ですね。

嘘や大袈裟な表現は無く、事実を伝えているだけですが、お話の構成を考えるのがとても上手な気がします。

流石、物書きを趣味にされている事はあります。

「……すごい」

バルア様の話に聞き入っていたギルクくんが驚きを通り越して、呆けたような表情で呟きます。

自分の武勇伝を聞かされるなど恥ずかしい限りですが、こういう反応をしてくれると少し気分が良くなります。

「ふふん。そうです。私も見た目に寄らずなかなかでしょう?」

「うん………紅い血の人達とそんなに仲が良いなんて…」

え?そこですか?

「お姉さんすごいや!そんなに紅い血の人達と仲良くしているなんて!本当に蒼い血の人なのか!?」

ええ…一応は蒼い血の者ですけど…

「へぇ~…そっか…そうなのか。蒼い血の人でも紅い血の人達と仲良くしている人はいるんだな!」

あれ……何だか違和感を感じます。

「お姉さんは紅い血のとても仲良しなんだね!」

「ええ。仲良くしていると思います。紅い血の人だけど、親友と呼べる友人もいますし」

「紅い血の人と親友!?……そ、そんな事があるんだ。その子は歳が近いの?女性?もしかして男性?」

何だか食いつきがすごいです。

「えっと…歳は同い年の女性です。まだ若いですがクラウサで商会を営んでいて、私がお店に買い物に行ったりもするのですよ。家具とかに詳しいので私室のコーディネートとかもお願いしています」

「そうなんだぁ…」

何だか凄く噛みしめるように私の話を聞いています。

「……もしかして、ギルク様は紅い血の人達と仲良くしたいのですか?」

「え?」

「違いますか?」

「そ、それは…」

目がキョドキョドとしだしました。

これは当たりですか。分かりやすくて可愛いですね。

「確かに蒼い血の多くの方は紅い血の人達の高圧な態度を取りますからね。紅い血の者達からは基本的に怖がられるものです。ギルク様がそれを気にされて人と会うのが嫌になってしまった。怖くなってしまった………とかでしょうか?」

「ぅぅ……」

「しかもそれを他の蒼い血の方々には理解されるはずもなく、相談できそうな側付きの使用人も交代させられて相談できるような状態ではない。違いますか?」

「……」

「ギルク様?」

「……あっている」

ああ、やはりそう言う悩みなんですね。

これはハリスハン卿にはちょっと理解するのは難しいかもしれません。

そんな内心の心配を余所に、ギリクくんはクリッとした眼をさらに丸くして私の方をジッと見つめてきます。

「……お姉さん……人の心が読めるの?魔法?」

「いいえ。とくにそういう能力も魔法も使っていません。ただ、強いて言うなら――」

答えを知りたいギルクくんが前のめりになります。

その瞳をジッと見つめて言います。

「――人の顔をよく見て、そして話をよく聞くようにしたから何となく分かったのです」

「人の……顔と話?」

「はい。ギルク様は紅い血の人達に意味も無く恐がれると仰いましたが、その紅い血の人達とちゃんとお話はしましたか?自分の考えを伝えましたか?」

「………してない」

「お顔を合わせて、目を合わせて、お互いをしっかり見るようにしましたか?」

「………みてない」

「今言ったことができれば、少なくとも理由も無く、一方的に怖がられるという事は無くなると思いますよ」

それでも偏見や先入観を覆すのには努力と時間が必要だと思いますが――まずはそこから始めるしかないと私は思っています。

その事を伝えてみると、ギルクくんはジッと考え込みます。そしてしばらくして口を開きました。

「うん…わかった………やってみる」

「それが良いと思います。ただし、それにはまずお父様とお話をしてみて下さい」

「父上と?」

「はい。失礼ながら私がハリスハン卿に初めて会った時には、目がギラギラされていて怖い方だなという印象でしたが、実際にお話ししてみるととても気さくで、とても道理のわかるお方です。

自分の伝えたい事をしっかり伝え、相手の思いもしっかり聞いて相互に理解を深める事をまずはするべきだと思います。

ハリスハン卿は受け止めることが出来る方だと思っています」

「そうだろうか……父上は話を聞いてくれるだろうか?怒ったりしないだろうか?」

「怒ると思います」

「お、怒られるの!?」

「はい。だって子供が間違ってると思われる道に進むようならば、それを叱ってあげるのが親と言うものだと私は思います」

「……間違っているのか」

「ハリスハン卿からしてみれば、間違っている事を言っていると思うでしょう。しかしそれはあくまでもハリスハン卿の視点で見た場合です。私は、ギルク様の考えは間違ってはいないと思っていますよ」

肯定されると思っていなかったのを、驚いた顔で私を見上げます。

「ギルク様も自分の考えは間違ってないと思っているのですよね。そう思うのならお父様にそのことをしっかりお話をされる方が良いかと思います。お父様もちゃんと話を聞いてくれると思いますよ」

「できるだろうか……」

「大丈夫ですよ。ギルク様ならできます。何せ、あのハリスハン卿のお子様なのですから」

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