引きこもりと出たがり 3 - ユークリッド
バルア様の出迎えを受けた私達はそのまま城内へと案内されます。
そこでは今度はハリスハン卿本人が出迎えてくれています。ちょっと期待されている感じがして少し緊張しますね。
「姫。よく来たな。身体の方は大事ないか?」
「お久しぶりです、ハリスハン卿。ありがとうございます。おかげさまで体調の方は全く問題ありません」
片腕なので略式ですがカーテシーをして挨拶を返します。
「ふむ。それは上々だ」
ハリスハン卿が無精髭の奥の口をニカッと開いて笑みを浮かべます。
お歳はそれなりに召しているはずですが、健康的な褐色肌だからでしょうか?少年のような笑顔です。先日親しくお話させてもらったからか、親しみすら感じます。
「さて、着いて早々で申し訳ないが、早速息子に会ってもらえるだろうか」
「はい。承知しました」
「うむ。こちらだ」
ハリスハン卿が先導して城内を進みます。
城内はやはり戦いに使う場所。という意識が強いのでしょうか?華美な装飾は一切無く、どちらかと言うと少し寂しい印象を受けます。
「息子の名はギルク。ギルク・ル・ハリスハンだ。今日も変わらず部屋からは出ようとはしていない」
「そうですか。ギルク様ですね」
しばらく廊下を進み、城の中でも中心部に近いところまで入っていきます。
「ここだ」
1つの扉の前でハリスハン卿が立ち止まりました。
その扉は廊下にある他の扉と大きさは相違ないですが、扉自体に少し装飾が掘られており、僅かに豪奢です。それと扉の横にはトラの特徴を持ったノーザンウルフ種の魔人兵が立っています。
兵士の方がハリスハン卿の姿を確認して、礼をしたのちその扉をノックします。
「ギルク様。領主様がお越しです」
「――父上が?」
しばらくして部屋から声がしました。
若い声ですが、声変わりはしてないのでしょう。男の子なのか女の子なのか分からない、優しく少し気弱そうな声でした。
扉が中から開き、1人の少年が出てきました。
わぁ……可愛い。
父であるハリスハン卿と同じオオカミのような獣耳に銀髪なのでどことなく似ている気もしますが、ハリスハン卿よりは顔立ちが柔和で、肌色もそれほど黒くなく、髪色もハッキリした銀ではなく、淡い色をしています。
母親似なのでしょうか?そんな見た目なので女の子と紹介されても信じてしまうかも知れません。
「父上……おはようございます」
「ああ。もう夕暮れだがな」
「は、はい…」
う~ん……ハリスハン卿の見た目の所為か、声の強さの所為か、ギルクくんは父親相手なのに少し気圧されている風に感じます。
「今日は客を1人連れてきた。お前の話し相手に良いのではないかと思ってな」
「は、話し相手…ですか?」
そう言われて初めてギルクくんの視線が私の方に向きました。
私を見て何か少し驚いているように見えますが、とりあえず挨拶しましょう。
「ギルク様。私の名はユークリッド・ル・クラウサと申します。天高くそびえる四方山脈に囲まれしクラウサの地を治めるフォーティス・ル・クラウサの娘になります」
ハリスハン卿にしたのと同様に略式をカーテシーをして挨拶をします。
私の挨拶を聞いてさらに驚いた表情になります。
「えっ……ユークリッド?」
「はい。クラウサ領主の娘のユークリッドです。今は訳あって療養のためにここハリスハン領に身を寄せさせて頂いています」
こういうのは第1印象が大切ですよね。軽く微笑み返します。
「クラウサでユークリッドって……も、もしかして!じゃ、じゃあ!お姉さんがあのユークリッドなの!?」
おぉ?予想に反して凄い食いつきです。引きこもっていて他者とも会わないという話だったので取り付く島もないのかと思っていましたが……。
えっと、どのユークリッドか分かりませんが、私はユークリッドですね。
「はい。私がユークリッドです。私の事をご存知なのですか?」
「うん!いつもルプサから色々と話を聞いているから。とても強くて、聡明で、誰にでも優しい女神のような人だと!」
もの凄く目を煌めかせながら私を見つめてきます。
そんなこと言ってるんですか、バルア様……。
私がそれとなく視線を向けますが、やはりバルア様の方は目を合わせてくれませんでした。
まあ別に良いですけど。
「それはありがとうございます。そんな風に褒められると照れてしまいますけど…」
「お姉さんがお客様で話をしに来てくれたの?」
「はい。そうです」
「わぁ……あ!ど、どうぞ入ってください」
ギルクくんが半身ズラして部屋に招き入れてくれます。
バルア様を視線で伺うと、今度ちゃんと視線合わせてくれて小さく肯かれたのでお邪魔する事にします。
「ち、父上もですか?」
「何だ?儂はダメなのか?」
「ち、父上は忙しいと思うので……お姉さんの事はぼ、僕に任せてください!」
絞り出すようにそう言ったギルクくんが私とバルア様が入ったところで扉を閉めてしまいました。
(………おい)
(何でしょうか?)
(まさか儂だけ入れてもらえないとは)
(領主様。大丈夫です。私など視界にすら入ってませんでしたから。それに比べれば全然大丈夫ですよ。さぁ、ここは姫様に任せて、お話が終わるまでお茶でもして待ちましょう)
扉越しにメディアナ様がハリスハン卿を慰めながら離れていくのが聞こえました。
……今のは慰めになっていたのでしょうか?
「さぁこちらに掛けてください」
部屋の中でも外向きに半テラス状になっている場所に置かれたテーブルへと案内されました。
ギリクくん、バルア様、私の3人でテーブルを囲み、傍付きの使用人と思われるうさぎ耳の女性がお茶を出してくれます。
勿論、私はトマトジュース(仮)しかまともに口に出来ないのでお礼だけ言っておきます。
各自お茶に手を付ける間もなく、ギルクくんが待ちきれないという感じで身を乗り出します。
「ルプサ。今度来るときはお姉さんが世界敵と戦った時の事を詳しく話してくれるって言ったよね?」
「あ……確かにお約束しました」
ギルクくんが凄く目をキラキラさせながら私とバルア様に迫ります。
「今日はお姉さん本人もいるし、詳しく話をしてくれるんだよね?」
バルア様が私の方をチラッと見られます。
「バルア様、お話頂いて構いませんよ。ただ、私はあの時は世界敵を倒すのにいっぱいで詳しく憶えていないのでお話はお任せします」
「そ、そうですか?では、本人の前で恐縮ですが、あの峠での戦いをお話致します」




