引きこもりと出たがり 1 - ユークリッド
ハリスハン卿は恥を忍んでお願いする。と前置きをして話し始めました。
ハリスハン卿には私よりも歳若い1人息子がいるそうです。
その息子さんがある時を境に、全然部屋から出てこなくなったそうで、理由を聞いても口を噤んで話してくれないそうです。
敵相手に口を割らすのは得意だが、息子相手にはどうすればいいのに皆目見当もつかないとか。
「――ということで、息子が部屋を出なくなってからは、世話係を変えてみたりもしたが効果が無く、領内の蒼い血の者達に話をさせてもみたが、暖簾に腕押し、一向に改善されなかった。そこで領内にはいない、歳の近い蒼い血の者であるユークリッド姫ならば、或いは部屋を出ない理由を聞き出せるのではないかと思ったのだ」
何よりも面白い娘だからな。と付け加えられました。私の一体何処が面白いのでしょうか?
「う~ん……何となく分かりましたが、しかしそれならば父親であるハリスハン卿が聞くのが一番では?」
「……儂にも話してくれん」
ちょ、父親にも話さないような事を私に聞き出せと!?
それは少し無理難題が過ぎるのではないですか?
「それは……私には責任重大すぎるのではないでしょうか?」
「勿論分かっている。会ったらいきなり改善するとも思っていない。ただ、幼少時代には領外の蒼い血の者に会う事自体、機会が殆どないものだ。歳の近い、違う環境で育った者と話をすることで何かのきっかけになれば儲けものぐらいにしか思っていない。気負う必要は無いし、責任を感じる必要も無い」
う~ん、そういう事でしたら少し話をしてみましょうか。
「お義父様。そういうお願いでしたらお手伝いしてみたいのですが、良いですよね?」
「………」
「お義父様?」
「……よ」
「よ?」
「よかろう……」
「はい。ありがとうございます」
お義父様から絞り出すように了承の言葉を得ることが出来ました。
過保護ですねぇ………私の所為か。
要望の話も一応纏まったところで、とりあえずお義父様はクラウサに一旦戻るようです。てっきり「ユークリッドと一緒じゃないと戻らない」とか言うものと思ったので少し意外です。
「勿論、ユークリッドをすぐに連れて戻りたいところだが……色々と事情がある」
「事情ですか?」
「ああ。あまり戻るのが遅くなるとゴンゴスが自害しかねない」
自害!?何故!?
「それが……ユークリッドの怪我の責任を取ると言ってな。
別にオレがどうこう言ったわけではない。言う前にゴンゴスが責任を感じて自害しようとしたのを何とか止めて、ユークリッドの安否を確認するまで保留にさせている。しかし予定よりも帰るのが遅くなったら勝手に自害しかねない」
「絶対そんな事は止めさせてください。将軍は何も悪くないのですから!私の所為で将軍を自害させるなんて絶対にダメです。早く帰って安心させてください。」
今日一番声を張り上げたかもしれません。
「ああ、わかっている。勿論何も罰を与えないわけではないが、紅い血の者にしては亡くすのは惜しい男だ。
それと理由はもう一つある。
緊急措置だったのは理解しているが、領主を除く蒼い血の者が他の領地間を行き来するのには本来は色々と許可が必要なのだ。それは自分の領地に帰る場合でもだ。だから帰郷はもう少し待ってくれ。正規の手続き等を済ませて、次回見舞いに来たときに一緒に帰ろう」
「はい」
「いいか?それまでは大人しくしているのだぞ?安静にして、少しでも早く身体を治すようにするのだぞ」
「わかりました。それまで大人しくして待っています」
「ああ、絶対に大人しくしていろ。いいな。いいな!」
「はい」
「絶対だぞ!?」
「……はい」
過保護ですねぇ。




