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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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父と涙 1 - ユークリッド

再び目が覚める――


………。


何やら身体がとても重くて、

疲労感がもの凄いくて、

でも…痛みは特に感じません。


……ここは?

目を開けた先には、ベッドの覆うように立てられた天蓋の天井が見えます。

でもその天井はクラウサの屋敷の私の寝室のものとは違いました。

ほんと……ここ…どこだっけ?

寝たまま、首を横に向けます。

部屋は私の寝室の半分ぐらいの広さです。綺麗に掃除はされているようですが、壁や床に使用している木材は決して上等のモノではないようです。室内にベッドとサイドテーブル以外の家具も見当たりません。

急いで準備した寝室のような雰囲気がします。


天井に向き直り、少しぼぉ~っとします。


……。

……。


あ……そうだ。何より先に確認しないといけない事を思い出しました。

自分の身体の事です。

大変な怪我をしていたはずですけど―――毛布を捲って身体を確認します。

身体には白に青がまだらに浮かんだ変な色合いの包帯が丁寧に巻いてありました。しかも首よりも下――手先から足先の指まで丁寧に肌の露出が一切無く巻かれています。これは巻くだけでも大変だったのではないでしょうか?

それともこういうことが出来る魔法でしょうか?

それにしても感触からして、包帯は肌に直接巻かれているようです。

要するに今の私は下着すら身につけていないです。

これは包帯を巻いてくれた人には全部見られてしまってますね…………女性の方が巻いてくれたと祈りましょう。

そんな事を考えながら、肝心の右半身に目を向けます。

記憶では右半身は戦闘中に世界敵に食いちぎられていたはず―――しかし、包帯の膨らみを見る限りは右脇腹から首元、鎖骨の辺りまで身体があります。

包帯の下がどんな状態なのかはあまり考えたくないですが……一応形は再生しているようです。

ただし、右腕はまだ再生途中と言ったところでしょうか。二の腕辺りまでしか感触はありません。

包帯はそのうち手先まで再生することを見越してか、腕が再生するであろう部分は包帯を筒状にして伸ばしてあります。もちろん中身が無いので、今はぺっちゃんこです。

それに何より右半身の色々なところが痒く、その周辺の包帯は斑ではなく、青いもの一色が滲んでいます。

これは身体半身の再生中であるという証拠でしょうか。


「ゆ、ユークリッド様っ!?」

「あ……」

丁度、天蓋の柱に隠れて見えませんでしたが使用人姿の紅い血の女性が傍についてくれていたみたいです。

私が首をゴソゴソ動かした音に気がついてベッドに駆け寄ってきます。

声からして女性だと判りましたが、疲労の所為でしょうか。目の焦点が合わなくてぼやけて見えます。

「ご気分は如何ですか?痛いところなどありませんか!?」

「ん……大丈夫…」

「い、いま、ご領主様をお呼びしますので!すぐに呼んできますね!」

そう言って使用人さんは出て行きます。

ご領主様……と言うことは、お義父様が王都から戻ってきてくれたのですね。そうなると私は少なくとも数日は寝ていたという事でしょうか。

視線を再び上に向けます。

他の部屋の音でしょうか。耳を澄ませると微かに人の声と、慌ただしく動き回る音が結構聞こえます。

そしてその動き回る音の中でも一際大きな足音がこの部屋の前まで来ます。

お義父様でしょうか?

扉がゆっくりと開かれます。

部屋に入ってきたのは―――お義父様ではありませんでした。

お義父様程の長身ではなく、銀色の立派な鬣のような頭髪に、ナイトウォーカー種にはあまりいない肌黒の中年の男性です。表情からは心持ち疲労感が漂っています。

えっと………だれ?……

………………あっ!

「は、ハリスハン卿!?」

思い出しました。それは以前にアカツキ隧道の出口付近でお会いしたハリスハン領の領主ヴィルク・ル・ハリスハン様でした。

「いや、そのままで良い」

そう言って私が身を起こすのを手で制しました。

そして私の顔や手先などに視線を移していきます。

「ふむ……大分身体が戻ってきたようだな」

ハリスハン卿は以前お会いしたときと同じように好奇の目で見てきます。

でもその視線の中に、安堵の気持ちが混ざっているのを感じたので不快ではありませんでした。

「あの……もしかして助けていただいたのですか?」

「ふむ。やはり無意識だったか」

ハリスハン卿は顎に手をやりながら思案顔になります。

「我々の軍が領都周辺の世界敵に逆襲して駆逐に成功し、その勢いで周辺の散らばっていた世界敵の掃討を始めていた頃。

クラウサとの領境にある間道の峠にも世界敵が向かったと聞いて、兵を進めたらしいが、我が軍が峠に達した時には、既にその世界敵の一隊は駆逐されておった。そして代わりに峠の頂上に立っていたのが――」

私ですか。

「――うつろな状態だったそうだ。

我々の姿を見た瞬間、その場に崩れるように倒れて意識を失いそれっきりだ。そちらが連れていた指揮官がうちのバルアだけだったのでな。クラウサ側とすぐに連絡が取れそうもなかったらしく、申し訳ないが断り無く我が領内の野戦病院に運び込んだというわけだ」

この野戦病院は、北の間道のハリスハン側の麓にあるそうです。

「断り無くだなんてとんでもありません。助けていただきありがとうございました。おかげさまで大分楽になってきました。

あの……治療をしていただいた方にもお礼を伝えたいのですが――」

「包帯を巻いたりした者の事か?それは儂だ」

え?……えぇぇぇぇぇっ!?

そ、それって……

「緊急だった上に、傷の具合も確認したかった。しかも姫だからな。素性の分からん紅い血の者に治療をさせる訳にもいかん。だから儂が衣服を脱がし、血まみれの身体を洗浄して、全身に包帯を巻かせてもらった。

ふむ。大変な作業ではあったが――なかなか良きモノを見せて貰ったぞ」

ハリスハン卿はニヤリと笑みを浮かべます。

悪い笑みです。

これは間違いなく私を揶揄っていますね。グラヴィスが偶に見せるのと同じ顔です。

「………それはそれは、わざわざありがとうございます。こんなボロボロの身体ですが、大変な作業の中での慰みに少しでもなったのならば幸いです」

窮屈な体勢で頭を下げた私の後頭部に、噴き出すような笑いが振ってきます。

「くっくっく……ワッハッハッハ!!面白い!面白いなお前は」

「面白い?」

「普通の年頃の娘ならば、寝てるうちに裸に剥かれたとあっては言葉を無くすだろうし、かといって、領主の儂に皮肉を返したりもしないだろう」

「まあ…本当にハリスハン卿に見られたのならば、本人を前に私でも顔を赤めるぐらいはしますが………何となく揶揄われているのは分かりましたので嘘かなと。

それでも最初に口にした感謝の気持ちは本当です。治療していただき、ありがとうございました」

「ふん、顔に出ていたか。儂もまだまだだな」

豊かな顎髭を触りながら、少し残念そうな顔をします。

「姫の予想した通りだ。作業内容は嘘ではないが、やったのはうちの治癒魔法が得意な蒼い血の医者だ。へたな者には見せておらん。それと安心しろ。その者は女だ。包帯も魔法で一気に巻いたそうだ。かっかっか、儂ではそんなに綺麗に包帯は巻けん。

その者は今は席を外しているが、呼びに行かせている。すぐに紹介しよう」

「そうでしたか。お気遣いありがとうございます」

正気、内心かなりホッとしました。

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