赤と黒 - ???
深い眠りから覚めたような感覚だ。
まだ意識が朦朧としている中、鮮やかな赤の光が目に飛び込んできた。その光は、夢の中で何度も見たあの光と同じだった。
目を凝らして光を見つめた。光はゆっくりと動き、頭上の方に浮かび上がった。そして、光の中から声が聞こえたのだ。
『無茶しすぎだよ、貴女』
「あはは……」
「まったく」
「え~っと……また会えましたね………でいいんですよね?」
『ええ。前にも会ったわね。よく憶えていたわね。普通は目が覚めたら忘れてしまうみたいなのだけど』
赤い光は私の周りを2周ほど飛び回ります。
『意識はしっかりしているかしら?』
「え?ええ……ただ、何だか……すごく変な夢を見ていた気がするのですが、よく思い出せません」
『夢ねぇ……』
赤い光が私の周りをしばらくフヨフヨしています。
『まあ、ここも夢みたいなものだから夢の中で夢の事を思い出すなんて埒が無いわよ?』
「確かにそうかもしれませんね」
とても重要な事なら忘れずに憶えているでしょうから、忘れたという事は大した事ではなかったのでしょうか。
『とりあえず折角助けてあげたのだから、少しぐらいは自分の命を大切にして欲しいわね』
「ああ……やっぱりそうなんですね」
『へ?』
「そうかなと思っていたけど、やっぱり貴女……女性ですよね?貴女が助けてくれたのですよね?もしかして貴女が蒼い血の者に私を覚醒させたのでしょ?」
『………』
「違いますか?」
『………』
「………」
『………そうよ』
やっぱり。
ただの光なので表情も何もないのですが、何故か『しまった』と顔を顰める同い年ぐらいの女の子が浮かんできた。
「何故ですか?」
『………』
何か言いづらい理由なのでしょうか?急に口数が減りました。
赤い光は何か悩んでいるのかのように弱々しく不安定に明滅しています。
まあ、言いたくない事なのでしたら無理には問い詰めたりするつもりはありません。いつか理由を教えて欲しいとは思いますけど…。
そんな事を考えながら、明滅して淡い光を放つ赤い光を眺めていると、ふと先日のお義父様の話を思い出します。
ここって生と死の境界線みたいな空間じゃないのかなと勝手に思っています。そう考えると――
「……もしかしてだけど」
『まだ何かあるわけ?』
「貴方は、ルルリラさん。ですか?」
『………』
反応がないです。答えに窮しているのかと思いましたが――
『ルル…リラ……ルルリラ?それって人の名前?誰なの?』
「あれ?」
窮していたというよりは考え込んでいたようです。
少し間を置いてから問い返すような声が聞こえてきます。表情が見えないので何とも言えないですが、声を聞く限りは誤魔化しているような雰囲気は感じられません。本当に疑問を口にしているようです。
これは私の早とちりだったかもしれません。
「え…えっと…私の知り合い?の女性だったのですが、もう亡くなられているみたいで。ただ、ここはそういう所なのかなと思って、てっきりそうなのかと」
『何で疑問形?』
また少し考えるような間が空いて――
『残念だけど、人違いね。そんな名前は初めて聞いたもの』
――と再び答えました。
どうも本当に違うようです。
てっきり死んでもなお未練があって、クラウサの為になる事を色々している――そんな想像を勝手にしてしまいました。
「あ、そう言えば…」
『ん?』
「今日は、黒い人?はいないのですね」
『黒い?…ああ。あいつね。あれは何て言うか……ちょっと頑張りすぎたから今日はお休みなのよ』
まさかの休暇有りなのですか?これってお勤めか何かですか?
自由気ままな存在かと思いましたが、まさか色々とルールがあったなんて。
『さて、そろそろ貴女は戻りなさい。身体も落ち着いた頃だろうから』
もう少しお話をしたかったのですが、赤い光から唐突に帰宅を促されました。
「あ…私はもう少しお話が――」
『ダメ。ここに必要以上に長く居ると戻れなくなるかもしれないわよ。それは貴女も困るでしょ』
う…確かに。母様に会えなくなるのはとても嫌です。グラヴィスやアイシャにも。お義父様は……まあ、寂しいかもしれません。
赤い光が『そろそろ帰った方がよい』と思ったからでしょうか。それまではしっかりその場に居る――という感覚があったのが、スゥッと自分の存在が薄れていくようなものに変わっていきます。
これは元の場所に強制的に戻されていっているという事でしょうか?
『あっ!忘れてた!?』
薄れかけていた意識が赤い光の声で少し引き戻されます。
はい?
『黒いのから伝言があったんだよ』
伝言ですか?何でしょう。
『「魔神女王にはなるな」だってさ』
魔神…女王ですか?
『そう。魔神女王』
えっと…それは私が。という事ですよね?
『う~ん。伝えるように頼まれただけで、私も実際よく分かってないから詳しいことは今度黒いのに会った時にでも直接聞いてみて~』
そんな赤い光の軽い調子の声を聞いているうちに、物理的な距離があるはずはないですが、段々と遠くに離れていくような感覚を覚えながら―――私の意識は急速に薄れていきました。




