魔神女王 - ???
ん……。
次に目を開くと――横にあった地面がなくなっていました。
さらに何かとても開けた場所にいます。
しかも建物の中です。
あれ……私は峠道で戦っていて――
「――陛下」
ふと呼ばれたような気がして顔を上げます。
そこにはとても天井の高い奥行きのある広間が広がっていました。
私はその広間の一番奥まった少し高くなっている場所に豪奢な装飾を施した椅子に腰掛けていました。そして、目線を下ろした先には立派な狐の尻尾をたくさん生やした女性の魔人がこちらに頭を垂れています。
さらに私の両脇に同じ顔をした正装の子供が2人――よく見ると、髪の長さや体型の僅かな違いから右が女の子。左が男の子だと分かります。
彼らの着ている鎧は何処か私の白銀の鎧に似ていると思いました。その腰には私のコテツよりも少し短めのカタナと思われる武器を差しています。
「陛下?」
狐尻尾の女性魔人が顔を上げて少し訝しげにこちらを見ています。
金髪の凄い美人です。体型もですし、少し着崩した感じの服装も相まって、何か妖艶な雰囲気を漂わせている大人の女性です。
「玉藻の話、ちゃんと聞いていただけどしたか?」
え?まだ何もハナしてないと思いますけど……。
口には出してないですが、雰囲気で伝わったのか、狐尻尾の女性は凄く悲しそうな目をします。心なしかもっさもさの狐尻尾も少しへたっているように見えます。
よく分かりませんが、これは悲しませてしまったかもしれません。
私が慌てた様子を見せたからでしょうか。狐尻尾の女性は今度は心配そうな表情を浮かべます。
「お顔に疲労が見られおす。少し休まれては如何どすか?お気に入りの庭の散策などは?きょーびされていあらへんように窺えますので」
え?なんて?
話している言葉は共通語ですが、ニュアンスというかアクセントというか、独特なものがあって聞き取りづらいですが、気分転換に散歩を薦められているようです。
ただ、頭が混乱していて自分の今の状況もよく分からなくなっているので、少し頭を整理する時間が欲しいのは確かです。
私が肯定の意を示して席を立つと、両脇の双子と狐尻尾の女性は私のために道を空けるように移動して頭を垂れました。
何だかとても違和感というか、居心地の悪さを感じますね……。
ちょっと待ってみたけど、誰も動き出しそうにないので私が歩きます。すると私の後ろの少し下がった位置で3人が着いてきます。
やっぱり違和感です。
「陛下?どちらに行かれるのおすか?」
え?道を間違えていますか?
「中庭は右になるおすよ」
うぅ……知らないので案内して貰えないでしょうか……。
言われたように広間出てすぐを右に行くと、しばらくして先が明るくなってきました。どうやら外のようです。
荘厳な石造りの廊下を抜けると、そこには城の中とは思えないほど綺麗で整理された中庭が広がっていました。
植物の種類や花の色あいなどをよく考えて配置されているだけでなく、植物が全体的に元気があるように感じました。
「流石、いつ見ても圧巻の庭おすな」
私が感心していると、顔に出ていたのか、狐尻尾の女性が同意を示す。
「女王陛下のお気に入りである灰色の庭師の作品なのおすから綺麗なのは当然どすかね」
灰色の庭師?誰ですか?
「前クラウサ卿と夫人が亡くなってからは灰色の庭師は陛下の心のよりどころおすから。あてがあれほど気を遣って接している紅い血の者はいきぃひんよ」
狐尻尾の女性はそこまで話してから苦笑いを浮かべつつ口元を隠します。
「これ失礼。失言でした」
先程から女王陛下というのは私の事ですか?前クラウサ卿と夫人?亡くなった?どういうことですか?
突然色々な情報が入ってきてさらに混乱が増してきた私の袖が軽く引っ張られます。
それまで無言で付き従ってた双子の片割れが私の側に来て囁きます。
「ユー姉様。あそこ」
ユー姉様?私の事ですか?
先程から気になる単語が連発して頭の処理が追いついていませんが、双子の指し示す方に視線を向けてみます。
そこには花壇の赤い花の間に揺れるように、灰色の頭髪の頭が見え隠れしています。
そう、それは頭が認識するのは一瞬でした。何せそれは私が生まれた時からよく見ていたであろう人のものなのだから。
灰色の髪の人がこちらに気が付いたようで、顔を上げようとした直前に私の視界は再び反転――真っ暗になりました。




