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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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北の間道と死線 2 - ユークリッド

コテツを振るって目の前の小型な世界敵を2体切り伏せます。

世界敵に急所があるのかは知りませんが、身体の中心線を断てば流石に四散するようです。


一体何体の世界敵を切り刻んだでしょうか?

30ぐらいまで数えていましたが、それ以降はよく分からなくなりました。

最初は聞こえていたバルア様の私を呼ぶ声もよく聞こえなくなりました。

蓄積した疲労によって、腕が重くなり、素振りの時には重さを感じる事が無かったコテツが少し重く感じます。


くっ!?


しまった。コテツを振り抜いた後の戻しが遅くなりました。

コテツを握る右手に狼のような形をした世界敵が食い付きました。手首まで完全に飲み込み、前腕に食い付いています。

焼けるような痛みが走りますが、コテツをここで落とすわけにはいきません!

無理矢理振り解こうと腕を振った先に、さらに黒い影が――


それは体長がいま私に喰らいついている狼型世界敵の3倍はあるかという、四足歩行の世界敵で、その大きな口が今まさに広がっていました。

そして、右腕に噛みついている狼型世界敵ごと――


私の半身に牙を立てました。

金属が砕けるような甲高く耳障りな音とともに、痛みではなく、もの凄い焼けるような熱が右半身全体に広がっていきます。

「かっ!?あっ!ああぁぁぁぁぁっ!!!」

そしてその巨体の世界敵はあっという間に離れていきます。

しかし私の右半身には気持ち悪くなるぐらいの喪失感を感じました。

さらに頼りにしていたコテツが何処にあるのかも分かりません。

何より半身の喪失感と痛みと失われる体温と誤魔化していた疲労感で意識が飛びそうです。


意識を手放しかけた時――

突然目の前に 黒い灯り が灯ります。

それは脳裏に浮かんだ幻想なのか……

目蓋の裏に映った幻影なのか……

でも…この灯り……何処かで見たことが……

そう思った矢先に、その黒い灯りは私の中に飛び込んできました。


『リアリゼーション(具現)』


無意識に呪文を唱えていた。


『リアリゼーション(具現)』


1度目の『リアリゼーション(具現)』で私の右半身ごと世界敵の体の中に取り込まれていたコテツをこちらの身体に戻し、

2度目の『リアリゼーション(具現)』でコテツを再び左手に具現化させる。


身体から離れていたコテツが左手に戻ってきた。


……。

……。

……コテツを握りしめると、少しずつだけど意識が回復してきます。

沈みかけていた意識が、誰かに掴まれて表層に無理矢理引っ張りあげられたような感じです。

左手に持ち直したコテツを杖代わりに傾く身体を支えようとしますが、それでも全身に力が入りづらくなっている事には変わりありません。

多少意識は戻ってきましたが、睡魔のようなものが襲いかかってきて、目蓋がとても重いです。

地面についたコテツを持ったまま倒れてしまいそうです。

怪我が酷すぎます。

怪我と言うよりも身体の喪失です。

血を失いすぎ…ました。

…痛みを通り越して、火傷しそうな熱を感じます。意識を失いそうです。


『フィルマニータ・ナトラ・サニター(自然治癒強化)』をかけて、失血と熱を少しでも抑えないと――


いえ…………違う。

それは悪手です。

今はゆっくり治療している暇はありません。迫ってくる世界敵を蹴散らさないといけません。私がそれをするには『フィジカル・コンフィルマ・オムニス(身体強化・全)』は必須です。

ひっす……。

……あぁ…………すごく目蓋が重いです。開けていられないです。

あけて………。

……。


ぅぅぅう………


―――うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


寝るなぁ!!わたし!!!

左足を大きく踏みしめて、その振動で全身に走った激痛によって目が覚めます。


休むなっ!死ぬぞ!魔法を使え!!2つ必要なら――同時に魔法を2つ使えっ!!!


私は手放しかけた意識を無理矢理奮い立たせて、もう一度自分の身体の中の力を引っ張り出します。

その取り出した力を半分に割って、

片方を『フィジカル・コンフィルマ・オムニス(身体強化・全)』に―――

もう片方を『フィルマニータ・ナトラ・サニター(自然治癒強化)』の為に全身へ流します。

『フィルマニータ・ナトラ・サニター(自然治癒強化)』のおかげで薄れかけていた意識は戻り、感じていた鋭い熱は麻痺したかのように和らぎます。

そして欠けた身体を『フィジカル・コンフィルマ・オムニス(身体強化・全)』で無理矢理筋力強化して起こしました。

動きの鈍った私を狙って、犬のような世界敵が足下に食らいつこうとしています。

それを跳んで躱し、右足で犬頭を蹴り飛ばします。

しかし弱っている今の私の蹴りぐらいで世界敵が倒せるでしょうか?

仕留め損ねて反撃された時に、今の身体が宙に浮いた状態での攻撃回避ができるでしょうか?

相手をこの1撃で黙らせる必要があります。その為の何か攻撃を強化するものをっ――

私は少ない引き出しからお義父様直伝の『アウグ(火球)』を引っ張り出します。

2つ魔法を同時に使えるなら、3つだって同じ事!!

咄嗟に、私は右のつま先に火球を宿らせて、そのまま蹴り抜きます。

つま先が世界敵に触れた瞬間――火球は爆発し、私の蹴撃と火球の爆風によって世界敵の頭の部分は綺麗に吹き飛んで、四散していきました。

おぉぉーー!

これは予想以上に強力でした。

しかし私のつま先も大変な事になっています。

火球の爆発に巻き込まれて、革のブーツは破け、つま先は再生が始まった証拠の青い泡まみれです。

他人の『アウグ(火球)』は防げても、自分の『アウグ(火球)』は無理という事ですか。『サニタス(治癒)』の魔法で自分の癒すことは出来るのと同じですね。

着地時にそのつま先に鈍痛が走り、また身体が傾いてしまいます。

何より右半身が脇腹から肩までごっそり持っていかれた状態です。

首を支える筋肉も右側はズタズタのようで、左に少し傾けないと頭を支えられない――こんな状態で姿勢を整えるなど至難の技です。


でも……やらないといけませんっ!!


私は再びコテツを杖代わりにして、身体を支えようとします。

しかし世界敵は待ってくれません。

今度はネコのような世界敵が3体、正面から飛びかかってきています。

私は今度は地面に差したコテツの先に『アウグ(火球)』を現出させました。

出した『アウグ(火球)』は地面と接触。反応してすぐに爆発。

その反動はコテツにも伝わり、

それが私にも伝わり、

爆発の勢いで地面から飛び立ったコテツをしがみつくようにして懸命に制御しながら、そのままの勢いで3体を横薙ぎにして四散させます。

左手だけで振ったコテツが、そのまま私の手からも飛んでいきそうになるのを懸命に握りしめながら、身体を横一回転させて勢いを殺して、踏みとどまり、再び世界敵達に対峙しました。

右腕は失いましたが、両足は残っているのが幸いでした。

それにしても!

うん!

この『アウグ(火球)』の使い方、とってもいいです!

コテツには傷も入っていませんし、利き腕ではない左手だけでも世界敵を複数体一蹴できる攻撃力が出せます。何より大きさを抑えた小さな『アウグ(火球)』なので魔力の消費も微々たるものです。大した事はありません!これならば何回でも行使可能です。

おぉっ!?

すごい!すごいです!私って、戦闘の天才ですね!

『アウグ(火球)』を教えてくれたお義父様に大感謝です!!大好きですよ!お義父様!


――と…そんな事を思って、自分を鼓舞しないと今にも身も心も挫けてしまいそうです。

………あと、大好きは流石に言い過ぎでした。


………。

変に冷静になれたからか、少しだけ周囲を見る余裕ができました。

いつの間にか、大分、世界敵が結構減ってきましたか?

そんな事を思っているうちにも、魔法で加速を得たコテツを振り回してさらに数体を斬り飛ばしました。

さらに数体――

また追加で数体――


………。

………。

………。


どれぐらい経ったでしょうか?

数分だったかもしれないですし、数時間経っていたかもしれません。

目の前に大きな蜘蛛のような姿をした世界敵を倒したところで、ふと敵の攻撃が止みました。

素早く周囲を確認しますが世界敵の姿を確認出来ません。

代わりに今まで世界敵に囲まれて視認できなかったバルア様や兵士の皆さんが見えました。何か叫んでいるようですが……ごめんなさい。耳がよく聞こえないです。

ふと気配を感じて、峠の反対側――ハリスハン領側を振り返ります。

そこには世界敵ではなく、獣のような姿に鎧を着込んだ魔人達――ハリスハンの兵士の方々ですね。こちらも何やら叫びながらこちらに走ってきています。

重ね重ね申し訳ありません。耳が言うこと聞かなくて、全然何を言われているのか聞き取ることが出来ません。

ただ……どうやら周囲の世界敵はあらかた駆逐できたようですね……

あれ?そこから視界が反転して、私の頬に地面が触れている感触がしました。いつの間に私は地べたに横になったのでしょうか……?

私が意識を保っていられたのはここまででした。

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