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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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隧道と防衛戦 2 - ゴンゴス

隧道の警備を行っていた第2連隊へは事前に連絡をしておいた。

アカツキ隧道の入口に着いた時には第2連隊100名も既に整列しており、合流して当初予定した総勢150名を揃えることが出来た。


隧道は山脈をつらぬくそれは反対側の出口がまったく見えず深く延びていた。

かなり間隔をあけて点々とランプが吊されており、隧道の中は僅かな明かりと静寂が、壁からは湿気と冷気が滲み出していた。

兵士達は良くも悪くも緊張しているのがよく分かった。無駄口を叩く者は一切無く、隧道内に足を踏み入れると足元の砂利がかすかに響く音だけが、その静寂だけをかき消していった。


第2連隊100名を先頭に、隧道の横一杯に広がった陣形で進ませる。

その後ろから第1連隊の一部50名が続き、その中心に我々が入った形で隧道を西に進んでいく。

隧道の横幅はそれなりに広く、馬車でも2台が横に並んですれ違えるぐらいの広さは十分にあった。しかし仮に隧道内で戦闘が始まった場合、馬車では引いている馬が壁に反響する戦闘音に驚いて暴れる恐れがあるため、隧道の入口に置いてきている。

姫様達、蒼い血の方々にも徒歩で移動していただいている。

儂の前にはそんな姫様が意気揚々と歩いているのはそんな理由からだ。

少し興奮されているように窺えた。儂に比べて二回りも三回りも小さいお身体が少し膨らんでいるように見える。

「……姫様」

「どうしました?」

「………」

振り返った姫様のいつもは穏やかな眼差しを見せている眼がクリッと瞳が開かれた状態になっていた。諄いと思われるかもしれないが、苦言しておかないわけにはいかない。

「……今回は実戦になる可能性が大変高うございます」

「む~…まさか、また後方で待機しろとか言うのですか?」

「はい。万に一つの事もございますれば――」

「そう言うことでしたら、グラヴィスも同じではないですか?」

姫様のご指摘に一同の視線が隣に立つ神殿長に集まる。

グラヴィス神殿長も一旦神殿に戻って着替えてこられていた。

裾の長い純白の神官衣の上から透き通った黒い衣を羽織る神殿長のいつもの正装に加えて、首元や袖口などに小さな宝石をぶら下げていた。それは華美に着飾るためというには装飾が乏しく、何か儀式のための祭具のように見えた。

詳しくは知らないが、これから戦場に向かうことになるかも知れないのだ。装飾品ではなく、何か魔法具の類いのモノなのだろう。

「私が何か?」

「グラヴィスも若い蒼い血の女性じゃないですか。それなのに私だけ屋敷で待っていろ。と言うのは納得がいきません」

神殿長が状況を察していただけたようで、苦笑いを浮かべる。

「今は領主であるフォーティス様が不在ですから、残っている蒼い血の者として、軍を率いる役目がありますからね。形だけでも…ですが」

「そういうことでしたら、勿論、私も同じです」

「姫様?」

横に並び立つ姫様。

お若い上に初陣だというのに気負いした様子は覗うことができない。大したものだ。

「一応、私も蒼い血の者なのです。貴族の義務を果たさないといけませんから」

「貴族の義務……ですか?」

「ノブレス-オブリージュとも言います。上に立ち、力を持つ者は、社会集団に対して一定の義務を果たさなくてはならない。というものです。今回の場合は、私は学ぶ機会があって戦う力があります。なので、みんなと一緒に戦いましょう」

「ノブレス……っと、そういう考えがあるのですね。初めて聞きました。まあ、儂は学が無いので、知らないことの方が多いですがね。ガッハッハ!」

「あれ?……」

姫様が何やら考え込み始めた。

「姫様?如何致しましたか?」

「…いえ……ノブレス-オブリージュって何処で知った考え方だったかな?と思いまして」

「書籍ではないのですか?姫様は大変な読書家であらせられますから」

「ん?……そうだったかもしれません」

姫様は首を傾げていましたが、それどころでは無い事を思い出した様子。

「と、とにかく。将軍がなんと言おうと私だけが屋敷で皆の帰りを待つだけなど嫌ですからね」

「しかし……」

「将軍、お願いします!」

儂から見れば孫娘ぐらいの年の愛らしい姫様が必死になって懇願してくる姿はとてもではないが抗えるものではなかった。

何よりもそもそも蒼い血の方が紅い血のものに懇願などあってはならない。

「姫様、おやめ下さい。私は進言したまでのことで、あくまで最終決定できるのは蒼い血である姫様です。儂はそれに従うまでのことです」

「え?しかし現在の総指揮は将軍に一任していますので――」

「だとしてもです。一任とは言え、あくまで姫様より采配などの一部権限を一時的に任されているに過ぎません。最終的に儂の意見に従う必要などございません」

「むぅ………」

「姫様からすれば面白くはない話かもしれませんが、そういうものなのです。飲み込んで下さい」

「……わかりました。でもそう言うことなら従軍して構わないという事ですよね?」

「ぐ………しょ、承知致しました」

少し悪戯な表情を浮かべた姫様が儂を見上げながらニヤッと笑った。

まさかと思うが、こういう結論になるように全て誘導されたのか?

してやられた気がしなくも無いが、蒼い血の方々の決定は絶対だ。姫様の動向を許したまま、全軍は隧道の奥へと軍靴を進めた。


報告が届いたのは、隧道内に入ってから1時間ほど経ってからだ。先行させていた伝令が息を切らしながら戻ってきた。

報告によると、東の出口付近に世界敵と思われる集団が出現し、一部が隧道内に侵入しているとの事だ。

相手の動きが予想以上に早いが、隧道内で補足できるのなら十分。後れを取らずに済んだ。

「進軍を停止。陣を立てよ!」

号令一下、隊列は静かに動き始めた。

前線の第2連隊の一部の者達が背中に抱えていた大盾を自分達の前に少しの隙間を空けるようにして並べて立てる。ここからでは見えないが、あの大盾の足下には小さな爪があり、それが地面を噛むことで押しても倒れにくい即席の壁を作ることが出来る。今回は隧道内の床を構成する岩盤の隙間に爪を食い込ませさせている。

これで即席の陣が出来た。少し隙間を空けているのは後ろから槍を突き通すためだ。第2連隊の半分を盾を抑えつつソードを構えさせる。残り半分はその後ろに立たせて手槍を構えさせる。

この後ろに控える第1連隊は、遊撃部隊であり予備兵だ。常に戦況を監視し、陣が崩れそうなところに彼らを投入して戦線を維持する。

幅の限られた隧道内でこの戦い方に徹すれば世界敵どもを通す事は無いだろうし、少ない兵力で長期間戦うことも可能だろう。

ただしそれも何処まで通用するかは相手の物量次第と言ったところだろうか。


「将軍!」

思案する儂を傍らに控える副官が呼ぶ。

副官や兵士達が向いている先――視線を隧道内の先に向けた。

なるほど、懐かしくも忌々しい姿の者どもが現れたようだ。

隧道内の大分奥の、ナイトウォーカー種の闇視でも辛うじて影で見えるぐらいの距離のところに何か動くモノが見える。

その影が近づくにつれ、何か奇妙な気配を感じ始めた。それは視覚的なものではなく、むしろ皮膚感覚に近い。背筋に鳥肌が立ち、心臓が早鐘のように鼓動し始めた。

戦った経験のある儂でもこの不快感だ。年若い姫様に耐えられるのかと心配になってお顔をちらっと伺ってみたが、嫌悪感は明らかに浮かんでいるがそれほど表情を崩されてはいなかった。

大したものである。

目視できる位置まで近づいてきたその影たちは、既存の生物が混ざったような姿をしていた。形容しがたいものから、古典に出てきそうなモンスターに似たものまで、姿は様々だった。

昆虫のような羽を持つもの、爬虫類のような鱗を持つもの、哺乳類のような毛皮を持つもの――互いに似たような見た目のものはいるが、全く同じ姿の個体は存在しない。と言われている。

何故そのような姿の生物が生まれたのか――。

これについては色々と言われている『神が作り出した失敗作』『禁忌の交わりによって生まれた忌み子』色々言われているが分かってはいない。

ただ、その姿は我々の感情を生理的に逆撫でるのは確かだ。

姫様の様子を視線の端で伺ってみる。

その表情には嫌悪の感情が浮かんでいた。当然だ。あの姿形を見れば、若い女性――いや、男性でも嫌悪感を抱くものだ。しかし流石と言うべきかその足は一歩も後ろには引いていなかった。

それに比べて――

隧道奥の世界敵達と我々の間に立つ兵士達の背中に視線を戻した。

姫様と違い、こちらは見るからに腰が引けている。致し方ない。本領の兵士はどうしても実戦経験に乏しい上に、世界敵との戦闘経験がある古参兵も数えるほどしかない。

しかし、それは姫様も同じ条件だ。何だったら日頃の訓練はこういう時に他の者達よりもよく動くために行っていたのではないのか。

「総員!その場で傾聴!」

それほど声を張り上げたつもりはなかったが、儂の声が隧道内を反響して、及び腰の兵士達の背中にぶつかり、その背中が一様にビクッと震えた。

「姫様の御前であるぞ!情けない背中を見せるなどもってのほかだ!気を引き締めろ!」

思い出したとばかりに兵士達の背中が伸びた。気持ち半歩ほど前に進んだのか背中が遠くなったようだ。

「確かに嫌悪すべき姿をした敵だが、所詮は野獣と大差ない。人と違い、技や戦術を駆使するわけでもない。叩けば潰れ、大軍だが無限に沸くわけではない。有限だ。日頃の訓練を発揮して見せろ!」

『はっ!!』

各部隊から是の声が挙げる。

ふと、視線を感じて姫様の方を見ると、何というかとてもキラキラした瞳で儂を見上げていらした。

「姫様?」

「将軍!流石、お義父様が信頼されている武人なだけはあります。私、今のお言葉にとても元気づけられました。兵士の方々も同様だと思います。戦術なども重要ですが、やはり人の上に立つ方は人心掌握の術も重要という事ですね。人を率いることが長けていらっしゃいます!」

「あ、いや。ありがとうございます」

こんなに直線的に褒められたことがないので照れくさい。

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