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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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危機と世界敵 2 - ユークリッド

興味ありますね。他領の紅い血の人達の扱い方について聞けるかもしれません。

「バルア様。それは――」

「遅くなり申し訳ありません」

詳しく聞こうした時、少し息を荒くしたグラヴィスとナルが応接室に飛び込んできました。大分、急ぎで呼んでくれたようです。

でも流石です。グラヴィスはちゃんと正装して、薄く化粧すらしています。

私みたいにガウンを羽織るだけのすっぴんとは違います。

「いえ、夕暮れの早い時間に呼び出してしまい申し訳ありません。こちらはルプサ・リ・バルア様。ハリスハン第8軍の将軍にして、ご使者殿になります」

「失礼致しました。グラヴィス・リ・ヴィリと申します。闇の女神テネブリスの神殿長とユークリッド様の補佐をしております」

「ハリスハン第8軍を預かるルプサ・リ・バルアです。なるほど……かの学院の女帝殿は故郷のクラウサに帰られたという噂を聞いてはいましたが、本当だったのですね」

笑いながら受け答えるバルア様とは対照的にグラヴィスの顔は見るからに引きつっています。

「さすが女帝様。ご高名が鳴り響いていらっしゃいますね」

「……ユークリッド様、止めてください。それは私の黒歴史なのですから……」

ちょっと怒った表情のグラヴィスも可愛いです。

グラヴィスに軽く現状を説明しているうちに、廊下を大きな音をさせて走ってくる者達が部屋に飛び込んできました。

「姫様!ゴンゴス。お呼びにより参上仕りましたっ!!」

「将軍。ご足労ありがとうございます」

「いえいえ!姫様のお呼びとあらば――って!姫様、何というカッコを!?」

現れたのはお義父様に負けないぐらいの大男。ゴンゴス将軍です。2人の従者も後ろに連れています。従者の方々は私の姿を見て気まずそうに目線を逸らしています。そこまではしたない格好でしたか?

将軍も寝間着にガウンを羽織っているだけの私の姿に顔を顰めます。

「緊急なので。話が済めば着替えます」

「はぁ……あっ!」

そこでようやくバルア様の事に気がついたようです。

「し、失礼いたしました。ご使者殿。私はクラウサの第1軍を預かるゴンゴス・ゴリゴースと申します。ご領主様留守中の軍務全般を取り仕切っております」

「ええ、知っているよ。紅い血の者ながら代々のクラウサ卿からの覚えめでたく、1軍を預かる将にまでなった豪傑と有名だからね。私はルプサ・リ・バルア。ハリスハン第8軍を預かる者です」

「これはこれはかの第8軍の将軍閣下にお目通りできるとは恐悦至極に存じます」

「第8軍を知っているか?」

「もちろん知っております!配下は魔物などを中心に小数精鋭ながら、その戦闘力、勇猛さはハリスハン8個軍で一だと聞き及んでおります」

そっか、お互いは隣同士の領地の将軍という関係だから知っていて当然ですね。

私はお義父様への文を書き終えたので、持って将軍の前まで行きます。

「将軍、これを」

「はっ!…これは?」

「お義父様への文です。今回の事に関する報告と、今後の指示を仰ぐ内容です。内容を確認して貰えませんか?」

「はい!喜んで!」

そう言って大きな手には少し小さく見える文を丁寧に開いて、1語1句読み落とすまいと食い入るように読み始めます。

「……………なっ!!」

半分ぐらい目を通したところで声をあげると、鬼面のような表情で私に迫ってきました。気持ちは分かるけど、ちょっと怖いです。

「落ち着いてください。将軍」

「これが落ち着いていられますかっ!?世界敵が再び現れたなどと!一大事ですぞ!」

世界敵ってそんなに脅威として認識されている存在だったのですね。

「将軍は世界敵のことを知っているのですか?」

「もちろんです!世界敵というのは――」


将軍が言うには、世界敵とは人工的に作られた生物とも、異世界からの召喚獣とも呼ばれている、正体不明の魔人種の敵の総称らしいです。

見た目は既存の生物が色々混ざった個体ばかりで姿は様々。形容しがたいものから、古典に出てきそうなモンスターに似たものなど、似たような見た目のものはいるが、全く同じ姿の個体は存在しない。そして魔人を好んで食すとか。

それと不思議な事に倒すと粉となって砕け散るため死体を捕獲した記録もない。生け捕りできないため生態の調査なども全く進んでいないとのことです。


「ありがとうございます。大変よく分かりました。駄目ですね。私はまだまだ勉強が足りませんね」

「い、いいえ!姫様は十分勉学に励んでいられております。まだ蒼い血のお方になられたばかり。知らないのは当然です!」

「そうでしょうか?」

「ええ。気が利かず大変申し訳ありませんでした。しかし……最近は世界敵が北壁を越えたという話を聞いたことがなかったのですが……」

「そうだ。北壁を越えてきたのは10年ぶりになる」

「10年でございますか。道理で最近話を聞かなかったわけだ」

バルア様と将軍の会話に、怖ず怖ずと手を挙げて割り込みます。

「あの……北壁とは何でしょうか?」

「恥ずかしがる必要はございません。姫様は最近まで紅い血の者だったのです。知らなくて当然です。

北壁というのはですね、この国の北の端に沿うように長く伸びた長城です。そして魔人種と異形の者達の住む世界の境――」

将軍が説明し、バルア様が補足してくれました。


北壁とは国の北の端に何百キロトルもの距離で作られたレンガ造りの長城。

いつ頃、誰が作ったのかはよく分かっていないが、国が維持管理し、北方の各領地はこの長城に兵を常駐させることが義務になっている。

では兵を常駐させて何から守るかというと――世界敵である。

世界敵はその北壁よりも北側の土地にいる異形の生物であり、それは犬や牛のような動物とも、オオトカゲのような魔物とも違う、完全に別の生物らしい。

そしてその世界敵の食事というのが ヒト ――蒼い血も紅い血も例外なく世界敵から襲われる立場だ。

有史以来、数千年に渡って魔人と世界敵は狩る狩られるを繰り返す宿敵同士ということです。


「その世界敵が北壁を10年ぶりに越えて、侵入してきたのですか……」

確かに近年にはない緊急事態だという事は分かりました。

「それならば国全体の危機ではないですか。王都からの救援はすぐには期待できないのですか?」

「確かに別の者が王都へ世界敵侵攻の報は伝えに行っています。しかし『すぐには』というよりか………残念ながら『まったく』期待できません」

「何故ですか?」

「王都から遠く離れた北の辺境の出来事で、そもそも関心が薄いというのもありますが……一番の理由は世界敵に対する備えは北の国境を要する領地の義務とされているからです。そのための備えをする代わりに北方の領地はどこも、ある程度の税の免除などの優遇を魔神王陛下より授かっております。にも関わらず、いざ事が起こった段階で助けを求めたとして……」

「すぐには助けには行かないでしょうね」

「……その通りかと」

「でもそんな使命があるのなら、尚のこと、先日のような領同士が争うような事などしている場合ではなかったのではないでしょうか?」

「……手厳しいですが、全く仰る通りかと」

あぁ……つい余計な事を言ってしまいました。

こういうところが、顔のわりに言う事がキツイ――とお義父様に言われる原因ですね。

「申し訳ありません。愚痴を言っても仕方なかったです。これからの事を話しましょう」

私は傍らに立つ巨躯のゴンゴス将軍を見上げます。

「将軍。確認しますが、明日までに召集可能な兵士はどれぐらいになりますか?」

「明日ですか?」

「はい。アカツキ隧道の出口へ早めに兵士を集めておきたいです。少なくとも隧道を抑えておけば、領内への侵入は防げます」

「なるほど……ただ、明日までとなると、隧道で定期警備に当たっている第1連隊の一部と第2連隊の当直の者達。合わせても数は軽装歩兵100、重装歩兵50ほどかと」

将軍の返事を受けて、バルア様に伺います。

「150で何処までできると思いますか?」

「………大変失礼ながら、我が領では北の境にはノーザンウルフの戦士総勢1500の兵を配置していました。今回の世界敵の侵攻が奇襲気味に受けたとは言え、1500の兵士でも戦線を下げる時間稼ぎほどしかできませんでした。150の兵で今のハリスハンに向かうのは正直危険かと…」

申し訳なさそうにバルア様は言います。大丈夫ですよ。予想通りの回答ですから。当事者に確認しただけです。

「いえ、率直なご意見ありがとうございます。では、ハリスハンには申し訳ありませんが、まずは自分達の領地の防衛を優先しましょう。

将軍、すぐに動ける者を集めて、アカツキ隧道の出口を抑えるように。隧道の通行も明日の朝には禁止にすると市中にも通知を出してください。理由も伝えて結構です」

「混乱が生じないでしょうか?」

「生じると思います。しかし隠しておいて封鎖が徹底されないよりはマシです。いかなる理由があろうとも日の出と共に閉鎖することを徹底してください」

「承知しました!」

将軍は連れていた従者に伝令を伝え、従者は簡易の礼だけして部屋を飛び出していきます。

「ちなみに私は世界敵というのがどれほどの強さか知りません。どれぐらい強いのですか?」

「紅い血の兵士では1対1で戦う分には手こずりますが……以前、オオトカゲと戦うユークリッド様をお見かけしましたが、ユークリッド様の剣技であれば4,5体ぐらいは世界敵を同時に相手しても全く苦ではないかと。ただし世界敵にも個体差がありますし、何よりも相手の一番脅威はその数の多さにあります。個体数が圧倒的に多いため油断すれば、あっという間に囲まれます。そこはご注意ください」

「なるほど。数の暴力ですか」

「なぁに、儂も昔、世界敵と何度か戦ったことはあります。姫様の手を煩わせませんぞ!儂でも5体ぐらい同時に軽く相手できますぞ!」

「へぇ~……となると、将軍と私が同じぐらい?」

「あ……こっこれは失礼しました!!姫様と同じなど――」

「ふふふ…違いますよ。将軍なら私の倍の10体ぐらい余裕じゃないかしら?」

「おぉ?……」

慌てて謝罪してシュンと申し訳なさそうにしているゴンゴス将軍ですが、私がニヤッと笑ってそう言うと、いつもの元気が戻ってきます。

「くかかっ、がはっはっはっは!もちろん!もちろんですぞ!!世界敵ごとき10体20体相手でも全く問題ありません。このゴンゴスに万事お任せください!!」

「ふふふ、頼もしいですね」

バルア様がそんな私と将軍のやり取りを心底不思議そうに見ています。

「……本当に蒼い血の者と紅い血の者の間の垣根が低いですな。クラウサは」

「ユークリッド様が特別なだけです」

グラヴィスが澄ました顔で答えます。

聞き捨てならないですね。

「お義父様はともかくとして、グラヴィスも私とあまり変わらないと思いますけど?」

「がっはっは!確かに神殿長も、他の蒼い血の方々とは、色んな意味でひと味違いますからなぁ~」

「将軍……余計ですよ」

「がっはっは!これは失礼しました。神殿長」

謝罪を口にしながらもニヤニヤ笑ってます。将軍、絶対反省していないですよね。

「くっくっく…」

バルア様が堪えるように笑っています。

「…失礼しました。こんなに愉快な作戦会議は初めてでつい……」

やはりこんなに蒼い血の者と紅い血の者がこんなに親密で、恐怖に寄らない関係を構築しているのはウチだけなのでしょうか?

とりあえず軍事面の話は一段落したので、内政面の話をしましょう。グラヴィスの方を見ます。

「グラヴィス。他に何かありますか?」

「そうですね……まずは領民への通知は確かに必要かと思います。領民の協力を得るためにも事を隠すのは愚策かと。通知は事務局や神殿関係者で行う事は可能です。しかし少なからず混乱が発生すると思います。兵が足りないのは理解していますが、領内の治安維持のために巡回する兵士を一時的にでも少し増やした方が良いかと思います」

「うん。そうですね。将軍、できますか?」

「承知致しました。先の150とは別に、後から準備できた部隊から優先して巡回をさせる事としましょう。

ただし戦況によっては、巡回部隊を減らして、前線に引き抜く可能性があるのはご理解ください」

「承知しています」

「あと、もう1点。

食料備蓄量を再確認しておいた方が良いと思います。クラウサの地は守るには適していますが、アカツキ隧道を閉鎖しては周囲との交流手段が絶たれて、外部からの補給は期待できません」

「そうですね。確認も事務局や神殿の方でお願いできますか。もし足りないようなら配給方法などを考えないといけないですね」

「はい。確認作業など、細かな部分はこちらにお任せください」

内政面の事務作業を行う役所である事務局と、領民と直接接する機会が多い神殿は、領民への連絡や備蓄倉庫の確認などの作業には最適です。

グラヴィスも外に待機していた役人に指示を出して走らせます。

あとは――

「バルア様」

「はい」

「バルア様はどうなされますか?一度ハリスハンに戻られますか?」

「いいえ、領主代理からはクラウサの手助けをしろと言われて来ております。お邪魔でなければ一時的にクラウサの末席に加えていただけないでしょうか」

「わぁ♪もちろん大歓迎です!なんと言っても蒼い血の者が私とグラヴィスの2人しかいませんから。とても助かります」

「そ、そう言えばお二人しか居ないのでしたね……それは責任重大ですな…」

「ふふふ、頼りにしていますよ」

バルア様。手伝うと言ったからには期待していますよ。


ここで一旦、バルア様は退室です。

少ないお伴と共に急いで来てくれたので、身の回りの準備や、短い時間ですが身体を休めて貰うことにします。

ミーシャに部屋を案内して貰いました。

応接室には私とグラヴィス、ゴンゴス将軍だけになります。

内容が防衛上に関する事のため、バルア様が退室している隙を狙って将軍に耳打ちします。

「…将軍」

「…はっ。何でしょうか?」

「北の間道は大丈夫でしょうか」

私の懸念をすぐに察してくれました。

「正直、少し気にはなりますが、過去に北の間道を通って侵攻してきた世界敵はいません。世界敵もヒトと同様に平坦で歩き易い道を好んで選ぶという事でしょう」

「そうですか。それならば良いですが」

北の間道は今は誰も使う者がいない。それでも道は荒れているが残っているらしい。ここを通ってハリスハン側から世界敵が侵入してきたら、それこそ兵力が足りません。そんな事にならないことを祈りましょう。

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