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魔神女王  作者: 冬ノゆうき
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拒否と理由 2 - グラヴィス

「――私が去年まで王都の大学院に通っていたのは知っていると思います。

大学院というのは主に魔法を勉強するための蒼い血の者向けの学校です。

1年おきに入学と卒業に繰り返していく仕組みで、すべて履修するには20年掛かります。1年目は1年期、2年目が2年期、20年目は20年期と呼びます。もちろん入学には高い学費が必要となります。そのため、20年期まで修める方は基本的に裕福な生活をおくっている蒼い血の者とは言え、それほど多くはありません。

私は3年前になります、13歳で1年期の大学院に入学しました。

ユークリッドも知っているように蒼い血の者達はここ数十年、ずっと少子化に悩まされています。私が入学した時も15人いた1年期の同期の中で一番若かったのが私です。他は皆10以上年上の方ばかりでした。

私は幼い時に両親を戦争で失っていたため、少しでも人を癒やせる、守れる力を得たいと思い『治癒・保護魔法科』を専攻しました。

入学当初は勉強に絶対遅れてはいけないと、がむしゃらでした。

少しおかしくなってきたのは……夏の中間試験の結果が出た頃でしょうか。

私の成績は1年期の同期の中でもずば抜けて高く、年も若く、自分で言うのも何ですがそこそこ見栄えも良いという事もあって、ちょっとした大学院の有名人になったのです。それで調子に乗ってしまったのでしょうね。注目される事が気持ちよくなり、自分が特別な存在だと勘違いしてしまいました。

それから私の周囲は賑やかになっていきました。交友関係は大きく変わっていき、友人は気が合う相手から、家柄などステータスの良い方々が主になっていきました。そして常に周りには友人ではない、取り巻きができました………井の中の蛙ならぬ、井の中の女王でしたね。あれは。

そのままトップの成績を維持したまま1年期を卒業し、2年期を迎えました。

2年期になっても私は何も変わりません。

利害で繋がる友人と媚び諂う取り巻きの真ん中で女王気分のまま、1年を過ごしました。この頃の私の渾名は『女帝』か『女狐』だったからもどんな状況か想像できるでしょう。

2年期も変わらず同期トップで卒業し、3年期も何も変わらず始まるかと思っていました。

しかし調子に乗りすぎたのでしょう。

2年期の卒業と同時に、ある領主の息子に迫られたのです。

よく言えばプロポーズですが、その実はほぼ権力に物を言わせた強制婚約でした。

若い蒼い血の女性は希少です。しかも成績優秀となれば食指が伸びるのは当然です。

もちろん断りました。お話した事どころか会った事すら無かった相手ですから。

しかし相手は領主の息子。私は小領に分類されるクラウサ領のしかも没落家の娘。抗えるわけも無く、半ば強引に人気の無いところに連れ込まれ、生意気な私を躾けると言って乱暴をされそうになりました。

その時になって気づいたのです。

私の周囲に領主の息子に逆らってまで、自分を助けてくれる人がいないことに――

そして抵抗するのも諦めたところで…………助けに入ってきてくれた男性がいました。


それがフォーティス様でした。


フォーティス様はたまたま路地裏に連れ込まれていく私を見つけて助けに入ったと言いました。

そして領主の息子とその取り巻きの蒼い血の者達3人に、その側仕えの紅い血の者達10人ほどを1人であっという間に倒してしまったのです。

私を絶体絶命の危機から救ってくれました。

口では『たまたま』と言いましたが、連れ込まれた路地は領主様がたまたま通りかかるような場所ではなく、どうやらフォーティス様は以前から私の素行に気になっていたようで、お役目で都に来ている間、私の後を付けていたようです」

「そっ、それから!?」

おぉぉ?

ユークリッドの食いつきが凄いです。ミカちゃんも目をキラキラさせて聞いています。やはり女の子は誰でもこの手の話が大好物です。

「フォーティス様は自分のマントを私をかけてくださり、軽々と抱き上げてくれました。俗に言うお姫様抱っこです。

そして……」

「そして!?」

「……説教を始めました」

「……ん?………え?…説教?」

「はい、説教です。以前から同郷の私の大学院での噂に思うところがあったようです。

まず、交友関係――友人の選び方についてと、周囲の人に対する接し方。もっと誠意と礼節を持って接しろ

あと、異性交流について――その気が無いにも関わらず、男性が勘違いするような言葉や振る舞いを故意に見せるのは危険だ。特にそういった露出の高い衣装を好んで身につけるのはどうだろうか。自重しろ

そして、私自身について――自分の身を危険に晒すような軽薄な行動は止めろ。しかも君は美麗で若い女性なのだから、なお一層、自分をもっと大事に行動しろ

と怒られました」

ちょっと期待していた展開と違ったのでしょう。

ユークリッドは話を飲み込み切れてない表情をしていますが、私にとっては亡き姉の夫であり義理の兄という以上ではなかったフォーティス様に始めて興味を持った瞬間でした。

「あまりこの話はしたくありませんでしたが……ユークリッドが都に行く様な事があれば、私の噂も耳にする事があるでしょうから。先に自分の口で告白しておきました」

「なるほど……それにしても他の領には、先日見かけたミリリバン卿のような人がたくさん居るということでしょうか?……うぅぅ、おぞましいです…」

ユークリッドが自分の細い身体を両手で抱きしめるようにして呟きます。

ミリリバン卿ですか。噂には色々聞いていますが、相当の好色家らしいですね。

少し可哀想ですが、ユークリッドにもそういった男性への警戒心をもう少し感じてもらった方が良いでしょう。

相手がフォーティス様だったから良かったですが、会ったばかりの異性に迫られて、一緒に入浴まで許してしまうような子です。実の母親でなくても心配でなりません。

「それでその後はどうなったのですか?その倒してしまった領主の息子から、さらに嫌がらせとか無かったのですか?」

私の心配を余所に、ユークリッドはこの話の後日談の方が気になるようです。

「えっと……それについてもフォーティス様が良くしてくれました。私とフォーティス様は幸い同郷の出身で、お互い全く知らない相手ではありませんでした。なので、私をフォーティス様の許嫁だったと言うことにしていただきました」

「許嫁だった?」

「ええ、以前から許嫁の関係だったと言うことにしてもらいました。これで曲がりなりにも私は領主の婚約者。相手はその婚約者に手を出したという罪人になります。まあ、未遂な上に相手も領主の息子ですから、色々裏工作をして領地での謹慎だけで罪自体は問われはしませんでしたが、それっきり会っていませんし、変な逆恨みなどを受けずには済みました。

私は結局3年期を卒業せず、フォーティス様に連れられるままに地元に戻りました。

そしてフォーティス様に言われるままに神殿長について――今に至ります」

「じゃあ…もしかして、お義父様の妃候補になったのはその領主の息子の嫌がらせから回避するため?」

やはりそこに行き着きますよね。

「えっと…それは理由の1つではありますが……それだけという訳でも……」

「それじゃあグラヴィスはお義父様の事が好きだから妃候補になったの?」

ん~…ストレートですねぇ。可愛いものです♪

でも、今、話したいのはそこではないので、誤魔化します。

「こほん……と言うわけで、私はまさに体験したからこそ分かります。

都は晴れやかなところではありますが、そういった蒼い血の者達の欲望渦巻くところでもあります。そして今、若い女性の蒼い血の者は格好の的でした。もちろんフォーティス様も当事者として、この事はよく理解しているところなのです。

勿論、ユークリッドは私と違い賢いので、私の様な事には陥らないと思いますが、相手は変わっていません。

貴族社会とはとても特殊で、上下の力が強力にものを言う世界です。蒼い血の者になってまだ二月しか経っていないユークリッドが付け込まれはしないか心配しているのだと思います。

フォーティス様も別にずっとクラウサから出るな。と言っているのではないと思いますよ。ただ、まだ早いと思われているのだと思います」

「……そういう事ですか」

ユークリッドが腑に落ちた顔をします。聡い彼女ならもう理解できたでしょう。

「ユークリッドが都に行けば、嫌でも目立ちます。しかし領主の娘とは言え、クラウサが逆らえないような大きな領地はいくらでもあります。しかももしもクラウサよりも力のある領地のものや王族に目を付けられては逆らう事は大変難しくなります」

「だからお義父様は……私を都に連れて行きたくなかった…」

「ええ、私の時のように事を収められるような相手ならまだしも、逆らってはいけないような相手に目を付けられた場合だとしても、フォーティス様はユークリッドを絶対に守るでしょう。私の時、以上に」

彼女を溺愛している理由は薄々理解してはいます。それでもフォーティス様のユークリッドへの愛情は半端じゃないですからね。

「そうなった場合、ユークリッドだけでなくクラウサ領全体を危険に晒すことになるかもしれません。頭の良いユークリッドならばどういう事かは察しがつきますよね?だから、私個人としても今はまだユークリッドはここで大人しくフォーティス様の帰りを待つようにして欲しいです」

ユークリッドはギュッと唇を噛みしめて黙ります。

しかしこの子はとても頭の回転が良いです。そして良くも悪くも我が儘を言う事がありません。自ずと答えは決まっています。

「…分かりました。王都へついていくのは止めます」

予想通り、我慢してくれました。

ただ、口では了解を示したけど、顔はまだ腑に落ちていない様子です。

「……それにしてもお義父様らしくないですね」

やはり疑問を口にしました。

「何処がです?」

「グラヴィスに説教したところです。あのお義父様にしてはとても常識的というかまともというか……」

え?符に落ちていないのはそっちですか?

ユークリッドの中でのフォーティス様のイメージって……。

「えっと、確かにユークリッドに対しては愛情が空回りして言動が怪しいときが偶にありますけど、本質は真面目でとても優しい、思いやりのある方ですよ?」

「ほほぉ~…」

ああ、今のは失敗でした。ユークリッドがとてもニヤけた顔になってます。興味の先が最初に戻ってしまいました。

「グラヴィスとお義父様の間にはあまり浮いた話が無いものだから、形式上の候補だったりするのかなと思っていましたけど……なかなかどうして。グラヴィスはお義父様にホの字ではないですか」

『ホの字』って……また古風な言い回しを知っていますね。

「……ええ、そうですが、何か問題でもありますか?」

「わっ…認めた!?」

「仕方ないではないですか。あんな人生の岐路で身を挺して助けてもらった上に……以前から気にかけてくれていて、事後も問題にならないように守ってくださったのです……ちょっとぐらい好意を抱いても仕方ないこと。うん、仕方ないことです」

「うん、うん。いいですよグラヴィス。グラヴィスがお義父様の事を想ってくれているのは私も嬉しいですから。それに私はグラヴィスがお義母さんだったら嬉しいです。応援していますよ」

「……はい」

咄嗟に返事できなかった私に、ニヤニヤしながらユークリッドが近づいてきて私を抱きしめます。

「ん~お義父様の事が好きなグラヴィス可愛いぃ~♪」

「ええ……そうですよ。ユークリッドと同じ想いです」

「へ?わ、私は違います」

「あれ?そうですか。同じくフォーティス様に恩を感じているという意味で一緒と言ったのですが……ユークリッドはあまり感じてなかったのですね」

ユークリッドの可愛い顔がちょっと歪みます。

またやられたと思っているのかも。

悪い癖だというのは分かっているのですが、都での様な事があっても可愛い子を揶揄うのだけは止められないですね。


次の日。フォーティス様は予定通りに僅かな供だけを連れて王都へと向かわれました。

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